「公園のSL」を再び走らせた天上の元機関士

動くからこそ伝えられる鉄道技術がある

D52の復活に心血を注いだ大日方孝仁氏(筆者撮影)

2017年4月1日。神奈川県山北町に蒸気機関車(SL)「D52」70号機(以下、D5270)の汽笛がとどろいた。この汽笛は町の至宝であるD5270をよみがえらせた天上の元機関士にも届いたに違いあるまい。

D5270、巨人機と言われる機関車は狭軌最大クラスを誇る戦時設計の大型貨物用機関車。現代の日本で、実際に走行するのは神奈川県山北町が唯一である。勾配線に健脚を生かして御殿場線の通勤通学輸送を担った町のシンボルは電化でその役目を終え、47年の歳月を山北駅に隣接する「山北鉄道公園」で町民に大切に見守られながら過ごしてきた。そのD5270を長い眠りから呼び覚まし、再び自走する勇姿を実現したのが元国鉄蒸気機関士の大日方(旧姓・恒松)孝仁氏である。

SLの構造に長けた機関士は希有な存在

大日方氏は蒸気機関士を目指して中学卒業後に国鉄に奉職した。分割を機に国鉄を離れた後も保存蒸気機関車の保全に尽力し、自身の乗務経験のある長野県御代田町のD51の修復から圧縮空気による動態化手法を確立し、実用新案を取得して群馬県川場村の宿泊施設「ホテルSL」に保存されているD51の動態走行をしていた。通常のSLのように石炭を燃やして蒸気で動かすのではなく、コンプレッサーによる圧縮空気で動かす。簡易な手法ながら巨体は確かに動く。

一方の私は、現役SLのトラブル解決に四苦八苦していた。SLは旅客を運ぶ現役機であるにもかかわらず、保守技術は国鉄からJRへの移行ですべてが完全に継承されていた訳ではない。博物館収蔵資料の調査では足りず、さらに経験者の意見も仰ぎたい。わらをもすがる思いで2013年に川場村を訪問したことが大日方氏との出会いの始まりである。

業務が細分化した国鉄では、運転技能を有する機関士であっても部品レベルの構造理解や修復技術があるとは限らない。だが、大日方氏は勤務先の機関区に隣接する国鉄長野工場への熱心な訪問学習で構造や修復に関する知識習得をしたことが判明した。

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