返還20年目「香港」が示す中国外交の根本体質 中国の支配が徐々に強くなっている

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たとえば、中国のWTO(世界貿易機関)加盟。交渉段階において中国は、世界に市場を開放すると約束した。この交渉には私もかかわっていたが、他国が中国の輸出企業に対して門戸を開いたのよりも、はるかにゆっくりとしたペースでしか中国は市場開放を行わなかった。中国共産党は、自国に有利となるよう不平等な取引条件を創り出そうと画策していたのだ。

西側諸国のリーダーである米国のドナルド・トランプ大統領がショッキングなほど信用できない人物である以上、西側の政治家が中国を信用できないといって批判しても、偽善と映るだけだろう。

だが、トランプ氏と中国共産党の最高指導部である中央政治局常務委員会を同様に見てはならない。トランプ氏は信用できない人物ではあるが、同氏が歴史のゴミ箱へと放り込まれた段階で状況は変わる。一方、中国の常務委員会は指導者が代わった後も生き永らえる。

中国が世界に与える影響は増すばかりだ。各国は、中国の指導部は信用できないばかりか、策略をめぐらす可能性すらあることを認識しておいたほうがいい。

中国が信用に足る国かどうか

今後数年間の香港は、中国が信用に足る国かどうかを判断する、1つの試金石となるだろう。香港返還は英中間の「共同声明」に基づいている。この文書は国連が認めた国際条約であり、これによって香港における高度の自治は2047年までの50年間、保証されることになっている。

だが、事態はそのようには動いていない。中国の支配が著しく強まり、政府に対する民主的なチェックは早くも排除され始めている。

中国は、香港における法の支配や司法の独立、大学の自治を脅かしている。報道の自由も半ば公然と制限するようになった。中国共産党の「法の支配」に従わせるため、何人もの香港市民が拉致され、大陸側へと連れ去られている。

確かに、香港は現在でもアジアで最も自由な都市の1つだ。これは、香港に住む人たちが共産党独裁ではなく、民主主義を信じていることが大きい。

世界は香港で起きていることをよく見るべきだ。中国が香港で約束を反故にしているとしたら、どうして彼らを信用できようか。

クリス・パッテン 英オックスフォード大学名誉総長

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Chris Patten

元英国保守党議員で最後の香港総督。欧州委員会外交専門部会委員、英オックスフォード大学総長を歴任。

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