「日本一貧乏な観光列車」が人気を集めるワケ 旅行会社のノウハウと鉄道好きの熱意が融合

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「ながまれ海峡号」ディナーコースは、函館駅を土曜日の15時50分に発車する。函館駅改札前で受け付けをすると、添乗員に飲み物の買い出しなども勧められた。飲食を目的とした観光列車では持ち込みが禁止されることもあるだけに意外だ。この“ゆるさ”はその後も続き、それは快適さと楽しさにつながることにやがて気づくことになる。

発車時間となり列車へと案内されると、車内では道南いさりび鉄道の社員がアテンダントとして出迎えてくれた。このアテンダントこそが、「ながまれ海峡号」運行を企画した日本旅行の新規事業室長・永山が出向派遣した社員だ。

車内は海産物で飾られ、座席にはテーブルとヘッドレストを取り付け。車端部は大漁旗で仕切っている(筆者撮影)

「ながまれ海峡号」は、前後に運転台のあるキハ40形が1両で運行する。そのため、木古内側の扉付近のロングシートは備品置き場とし、クロスシート部との間を大漁旗で区切っている。2~4人だとボックスシート、1人だと函館側のロングシートを基本としているため、1人で参加しやすいのもポイントだ。募集人員は48人だが、相席をしないため実乗は満席でも40人程度だという。

車内には、函館湾で獲れる海産物の飾り物が取り付けられ、各シートにはテーブルが設けられているが、このテーブルや海産物の飾り物、それに前述の大漁旗などは土曜日の日中に取り付け、日曜日のランチコース終了後に撤去する。こうして「ながまれ海峡号」を運行しない日には一般車両として運用できるのだ。

スイーツから始まるディナーコース

着席すると、テーブル上には「函館海鮮スイーツ丼」が置いてある。函館のフランス菓子の名店「プティ・メルヴィーユ」製の、海鮮丼のように見せかけたスイーツだ。

ところで、ディナーコースでありながらスイーツからスタートするのは何だか不思議だ。その理由は、所要時間にある。「ながまれ海峡号」ディナーコースは15時50分に出発して、函館駅に戻ってくるのは19時47分。つまり、約4時間もの所要時間なのだ。

スイーツを楽しみつつ、アテンダントと添乗員のアナウンスを聞き、沿線案内や小ぶりの升などの入ったお土産袋をいただいていると、16時19分に上磯駅に到着する。進行右手の車窓を見ると、ホームにはにこやかに手を振る人々がいる。そろいの法被を着た駅弁売り風スタイルだ。

これこそ、永山が通って協力を得られることになった“ホーム立ち売りの再現”だ。上磯商店街の人々が、カニ寿司やお菓子などの特産品を箱詰めして、「ながまれ海峡号」到着時に立ち売りをしているのだ。キハ40形は冷房装置がなく、窓の開閉が自由なので、駅停車中の立ち売りを再現できたという。

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