「日本一貧乏な観光列車」が人気を集めるワケ 旅行会社のノウハウと鉄道好きの熱意が融合

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お腹が落ち着いた18時59分、茂辺地駅に到着する。同駅では20分停車するが、下車して跨線橋を渡った上りホームへと誘導される。そこは駅構内でありながらテントが張られ、炭焼きのバーベキューが行われている。JA新はこだてと上磯漁協の協力による、旬の海産農産品「いさりび焼き」だ。

茂辺地駅ホームでのバーベキュー。炭火で焼いて、その場で折り詰めしてくれる(筆者撮影)

このときは、ホッキ貝とツブ貝、それに北斗市のおぐに牧場の和牛とグリーンアスパラガスが焼かれていて、目の前で次々に折りに詰められていた。折りの中にはあらかじめ厚沢部町発祥のメークインによるじゃがバター、茂辺地産ワカメ入りの俵おにぎり、茂辺地産ヒジキ入りの卵焼きが入っている。その詰めたての折りを各自が受け取って、自席でいただくのである。この日は、さらに採れたての新鮮なイチゴも付いてきた。

跨線橋を渡って折り詰めを受け取りに行くのは、やや厄介な感もある。しかし、4時間にも及ぶツアーだ。上げ膳下げ膳で出されるままに食する観光列車が多い中で、あえてセルフサービスにするこのゆるさはうれしい。ちょっとだけながら、参加した感も生まれる。これも、永山の仕掛けのうまさであろう。

4時間の旅はあっという間に

筆者が参加したときには、なぜか跨線橋に上ったものの、そこから下りてこられない人がいた。どうしたのだろうと思うと、足の具合がよくないため跨線橋の上り下りがつらいとのこと。それを聞いた添乗員は、折り詰めは代わりに持っていくのでご心配なくと対応していた。ツアーでの客扱いに長けた添乗員ならではの機転の利いた対応であり、これなら誰もが安心して参加できるとの印象を受けた。

「ながまれ海峡号」は、5月から10月までの第2・第4土曜日を基本にディナーコースが運行される。今年は、ディナーコースの翌日となる日曜日にランチコースも運転されている。ランチコースは上磯駅での立ち売りと、木古内の道の駅「どうなんde's」特製イタリアンテイストのボックスランチがあるが、出発時のスイーツと茂辺地駅でのバーベキューがない。その分3000円安くなるが、筆者の価値観ではディナーがお勧めだ。

長いと思った4時間は、途中、何度も立ったり列車外に出たりしたので、意外なほど早く過ぎ去った。座ったままの2時間よりも、感覚的には短い時間だったかもしれない。満足感に浸り、函館駅のホームに降り立った。

(文中敬称略)

伊藤 博康 鉄道フォーラム代表

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いとう ひろやす / Hiroyasu Ito

1958年愛知県生まれ。大学卒業後に10年間のサラリーマン生活を経て、パソコン通信NIFTY-Serveで鉄道フォーラムの運営をするために脱サラ。1998年に(有)鉄道フォーラムを立ち上げて代表取締役に就任。2007年にニフティ(株)がフォーラムサービスから撤退したため、独自サーバを立ち上げて鉄道フォーラムのサービスを継続中。鉄道写真の撮影や執筆なども行う。

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