人間が過去の記憶を都合悪く解釈しない理由 記憶力に自信がない?水分足りていますか?

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ヤッサ博士らの発見のポイントもここにあります。カフェインも固定プロセスを促進するというのです。実験の結果、勉強をした「後」にカフェインを摂取すると、記憶したことを長期間覚えていられることがわかりました。

コーヒーといえば、眠気を覚ますために勉強「前」に飲むイメージがありますが、勉強「後」に飲んでも効くというわけです。

ヒトは過去を都合よく歪める

次に、記憶がいかにあいまいかということを、「過去の自分」についての記憶を例にとってご紹介しましょう。

3年前の自分を思い出してください。当時の能力や知識はいかほどだったでしょうか。3年間にさまざまな経験をし、現在の自分のほうが技能や情報を習得し、立派になっているでしょう。では、3年前の自分は、今の自分と比べて、どれほど「できなかった」でしょうか。

ウォータールー大学のコンウェイ博士らの実験を紹介しましょう。彼らは大学で「学習技能プログラム」という講義コースを設定しました。「よい成績を収めるためには、どのように勉強したらよいか」を教える自己啓発セミナーです。

意外と知られていないのですが、こうした支援プログラムにはほとんど学力向上の効果がないことがさまざまな調査から証明されています。にもかかわらず、学生たちはこぞって講義を受けようとします。なんとも皮肉な傾向です。

コンウェイ博士らはこの点に目をつけたのです。講義コースの募集を始めると、すぐに定員は満杯になり、抽選漏れした学生は補欠として待機リストに入れられました。

プログラムは3週間にわたって行われました。初日に、現在の自分の学力や勉強時間、集中力などを自己評価してもらいます。その後、効果的な聴講の方法やノートの取り方、読書術について、毎日90分の授業を受けます。コース修了後のアンケートでは、参加者のほぼ全員が、プログラムに満足したと回答し、学力も向上したと自己評価しました。

ところが、このアンケート結果から面白い事実が見えてきます。学生たちに、講義コース初日に「自分の現状についてどのように報告したか」を思い出してもらったのです。すると、当時の自分が付けた自己評価点よりも、今の記憶をさかのぼって思い出された評価点のほうが低いことがわかりました。つまり「あの頃の私はできなかった」と過小評価するのです。こうした事実誤認は、プログラムを受けることができなかった学生には見られませんでした。

つまり、自分が受講したプログラムに効果があると信じているために、その確信とつじつまが合うように都合よく自分の過去の記憶を歪めてしまうのです。ちなみに、その後の期末試験では、受講者と補欠メンバーで成績に差がなかったことを付け足しておきます。

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