東京人でも意外と知らない「東京の森」の現状 東京の面積の約4割を森林が占めている

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なんとかしてもう一度、東京の森林を再生させなければならない。しかし、今後も木材価格が大幅に上昇する見込みは低く、林業のコスト削減への取り組みも進みそうにない。木材の伐採を民間に委ねられる状況にないと判断した東京都は、2006年度から10年計画で木材の主伐事業を開始する。花粉症発生源対策に重点を置くこの事業では、多摩地域のスギが計画的に伐採され、その跡地に花粉の発生量が従来の100分の1のスギが植栽された。人工林の伐採・利用・植栽・保育という森林の循環を取り戻すために、長期的な視野で臨んだ政策だ。

伐採により木材を安定的に供給する。木材の販売収益などで、森林の植
栽や保育を促進する。若くて生長が盛んなスギが、二酸化炭素を吸収する
――。この好循環を生み出さない限り、東京の森林はこれから先も健全な状態を維持できない。そして、スムーズな循環には、伐採と同時に木材の利用拡大が不可欠だった。

こうして登場したのが、「多摩産材」である。2006年4月から、東京都は、多摩地域で生育し、適正に管理された森林から伐採された木材を、多摩産材として認証する制度をスタートさせた。

多摩産材は現在、東京都日の出町にある都内唯一の原木市場「多摩木材セ
ンター」で取引されている。多摩産材の約7割はスギ、3割弱はヒノキ。そのほとんどが、住宅の柱や梁(はり)として使用できる、直径26センチメートル以上の立派な木材だ。人工林の伐採の適齢期は、50年生(ねんせい)以上といわれている。その頃には、建材として使える十分な太さへと生長するためだ。現在、多摩地域の森には、50年生を超えるスギ・ヒノキが約650万立方メートル存在している。終戦直後に植栽された人工林は、今まさに収穫期を迎えているのだ。

間伐により木の密度を調整することで、スギやヒノキが健全に生育する。適度に陽光が入り、草や低木が育つことで、地表の土も雨風から守られる(写真提供:東京都)

2006年の主伐事業の開始以降、多摩産材の取扱量は着実に増加し、公共施設や住宅での利用が進んでいる。スギは加工しやすいため、什器や木製玩具として活用されることも多い。東京の木を東京で使えば、木材輸送距離の短縮により、環境負荷の低減につながる。また、地元で育った木材は東京の風土によく馴染(なじ)み、家づくりにも適しているという。とはいえ、全国的にはまだまだ知名度も低く、建築士たちにも認知されていないのが現状だ。木材の一大消費地である東京で、木の地産地消は進むのか。多摩産材の普及に、東京の森の未来が託されている。

多摩産材を活用した施設が続々誕生!

現在、千代田区の神田神社では、2029年に創建1300年を迎えるにあたり、神田明神文化交流館の建設が進められている。江戸時代から人の集まる交流の場だったことから、外国人旅行者や都民に江戸の文化を発信する場として、同施設を新設する。神田神社に祀(まつ)られる平将門公(たいらのまさかど)は青梅など多摩地区との縁が深いこともあり、主な木材として多摩産材が使用される。完成すれば神社施設では初となる、耐火集成材を用いた耐火木造建築となる。多摩産材も、耐火塗料を用いて加工し、耐火集成材として使用される予定だ。

原木市場。多摩木材センターでは、毎月2回、市が開催され、原木が取引されている。多摩産材が占める割合は、2006年の時点では約3割だったが、現在は8割以上となっている(写真提供:東京都)

同施設の建設は、東京都の「にぎわい施設で目立つ多摩産材推進事業」に指定されている。これは、利用者が多く多摩産材のPR効果の高い施設に対し、東京都が上限5000万円で施工費の一部を補助する制度。2016年から2020年の夏までに20施設を目標とし、毎年事業者を募るという。東京都は、同事業に5年間で10億円の予算を計上。2016年には、神田明神文化交流館のほかに、多摩動物公園駅新施設、セレオ八王子、JR武蔵小金井駅の高架下施設が指定を受け、それぞれ5000万円の補助金が交付された。

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