米国経済は9月以降に波乱も 景気・経済観測(米国)

拡大
縮小

たとえば、国債利回りの上昇を受けて住宅ローン金利が急騰したことから、住宅市場では先行きを不安視する声が強まったが、これまでに発表された指標は総じて住宅販売や価格の回復傾向が続いていることを示している。業界内でも、ローン金利上昇の影響があるのはカリフォルニアやハワイ、ニューヨーク都市部など、高価格帯物件が中心の地域に限られるとの見方が大勢だ。

また、社債利回りの上昇によって企業の資金調達に支障が出ることを心配する向きもあるが、銀行の貸出余力が十分にある中で、企業向けの貸出態度が相当程度緩和していることを踏まえれば、資金調達が急速に困難化する可能性は低いだろう。

9月以降の「新学期」は波乱も

金融市場の動揺が一服したことに加え、GDP統計やISM指数、雇用統計といった重要指標の発表を曲がりなりにも乗り切ったことで、景気に対する過度の懸念は和らいでいる。市場関係者にとっては、ここ数年と異なり穏やかな夏休みとなりそうだ。

ただ、休み明けの9月以降は再び一波乱ある可能性が残っている。9月17~18日に開催されるFOMCでは、量的緩和の縮小(テーパリング)が始まると見込まれるほか、10月にかけて、バーナンキFRB議長の後任指名が行われると予想されているからだ。

市場は9月FOMCでのテーパリング開始をほぼ織り込んでいるとはいえ、実際に量的緩和の縮小が発表されたときに、どれだけの反応が生じるかを予測することは難しい。

また、FRB議長の後任人事に関して、市場ではイエレン現FRB副議長の昇格が圧倒的に支持されているものの、オバマ政権内にはサマーズ元財務長官を押す動きもあり、まだまだ予断を許さない状況である。FRB議長職は金融政策の見通しに大きくかかわる重要ポストだけに、穏やかな夏休みの後に待つ米国経済の「新学期」が波乱含みなものとなる可能性には、十分注意をしておく必要がありそうだ。

服部 直樹 みずほ総合研究所エコノミスト

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はっとり なおき

2009年神戸大学経済学部卒業後、みずほ総合研究所入社。12年11月よりニューヨーク事務所駐在。米国担当エコノミストとして、雇用動向や個人消費、住宅市場、金融政策などの分析に従事。

 

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