安倍改憲の本丸「9条改正」に待ち受ける関門 ついに改憲をブチ上げた首相の戦略とは?

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その間、今年3月5日の自民党大会で総裁3選を可能とする党則改正が決まり、2018年9月の総裁選での3選によって、2021年9月までの史上最長政権を実現する道が開けた。そうした状況下、首相は「在任中の改憲実現」のための具体的戦略を固め、発言のタイミングを測ってきたとされる。

首相が着目したのは施行70年の節目となる憲法記念日だった。4月24日夜には、数年前に独自の改憲試案を紙上で発表した読売新聞の渡辺恒雄・グループ本社主筆と会食。同26日には同紙の単独インタビュー応じ、その内容が同紙の5月3日朝刊の一面トップに掲載された。同日の集会での首相メッセージはこれを受けたもので、70年に合わせて憲法特集を組んでいた大手マスコミ各社は、首相の改憲案を競って報道した。 

改憲論議の最大のポイントは、戦争放棄をうたい戦力不保持を明記した「9条1・2項」の扱いだ。憲法学者らが「自衛隊違憲論」の根拠としてきたもので、自民党改憲草案では戦力の不保持を削除し、「国防軍の保持」を盛り込んでいる。しかし、首相は「9条1・2項」はそのままにして、新たに加える第3項で自衛隊を明文化することを提起した。これは、「加憲」を主張する公明党への配慮とされ、同党幹部も「十分に理解できる」(遠山清彦衆院議員)と評価した。一方、「高等教育の無償化」は維新の改憲案の柱でもあり、同党の取り込みを狙ったものだ。

表向きは「与野党の幅広い合意を目指す」と繰り返す首相だが、与党の公明と野党の維新を束ねて、「3分の2」という"数の力"で衆参両院での改憲発議につなげようとの思惑も隠せない。「2020年の施行」という時限設定も「民進党などが徹底抗戦すれば中央突破も辞さないとのサイン」(自民幹部)と解説する向きもある。

2019年夏の参院選と国民投票のダブルが本命

注目されるのは改憲論議に絡む政治日程だ。首相の自民党総裁としての任期は2018年9月までだが、総裁公選規程の改正で3選出馬が可能となった。今回の首相の改憲発言は総裁3選を前提としたもので、任期満了となる2021年9月が「在任中改憲」のタイムリミットだが、「2020年施行」の場合に想定される国政選挙は2018年12月の任期満了までに行われる衆院選と2019年夏の参院選となる。首相にとってこの2つの国政選挙での「勝利」が改憲実現への政治的条件となるわけだ。

そこで問題となるのが、改憲のための国民投票と国政選挙の関係だ。これまでの論議では「改憲と政局は絡めるべきではない」として国政選挙との同時実施を否定する意見が多かった。しかし、国の財政が苦しい中、経費節減のメリットも含めての「ダブル選」論も台頭しており、「最終的には首相の判断次第」(官邸筋)とみられている。

首相が衆院解散を国民投票と絡める場合、その前提となる国会発議までに必要な手続きや時間を考慮すると、総裁3選後の「2018年秋解散」が有力視される。ただ、その時期は消費税10%の2019年10月実施の可否の判断と重なることもあり「増税を決めた上で、改憲を争点とした衆院選を行うのは政治的リスクが高すぎる」(自民長老)との指摘も少なくない。

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