47歳難病男性が「障害者手帳」を熱望する事情 難病が原因で転職のたびに条件が悪化した

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また、厚生労働省障害者雇用対策課は「手帳の有無に関係なく、再生不良性貧血のような難病の方もハローワークの専門援助部門を利用することはできる」とするが、マモルさんは「求人票に“身体障害者手帳〇級以上”と書いてあるんです。相談員からも“この求人は手帳のない人には紹介できません”と言われました。これでは利用できないのと同じこと」と憤る。

マモルさんは現在、障害年金を受給しているが、支給が決まるまでの経緯も一筋縄ではいかなかった。

「初めて社会保険事務所(当時)に行ったとき、担当者から“あなた、自分の足でここまで来たんですよね。それだけお元気な方に年金をお支払いするわけにはいきません”と門前払いされました。診断書や保険関係の書類も持参しましたが、専門用語をまくしたてられ、とりつく島がありませんでした。その後、あちこち調べたところ、社会保険労務士を通して申請すると認められやすいという話を聞いたので、なんとか依頼料を工面してもう一度申請したんです。そうしたら、あっけないほど簡単に支給が認められました」

行政担当者の話を聞くかぎり、病気や障害のある人は、手厚く、公平に保護されているようにも見える。しかし、現実には、マモルさんは身体障害者手帳を持つことはかなわず、ハローワークの障害者向けサービスを利用することもできない。障害年金の支給をめぐっては危うく泣き寝入りを強いられるところだった。

「生活への支障というなら、(身体障害者手帳が交付される)発症前のエイズの人に比べ、階段の昇り降りにも苦労する僕のほうが、支障が少ないとは思えないんです。不公平だと感じます」。マモルさんは理想と現実のギャップを前に途方に暮れる。

結婚して1年足らずで病気が発覚

再生不良性貧血と診断されたのは、結婚して1年足らずの頃だったという。新婚の妻は「なっちゃったものは仕方ない」とさらりと言っただけで、その後は何ひとつ変わることなく接してくれた。子どもができたときも、どこかで調べてきたのか「(再生不良性貧血は)遺伝はしないんだって。何とかなるよ」と背中を押してくれた。専業主婦になることを望んでいたが、病気がわかってからは共働きで家計を支えている。

当時、親戚や知人が彼女に離婚するよう勧めていたことを知ったのも、ずいぶん後になってからだったという。「彼女にはっきりと言ったことはありませんが、“不良品”をつかませちゃったなという気持ちはあります。(彼女には)感謝――、それしかないですね」。

現在、一家の収入はマモルさんの月収20万円余りや障害年金、妻のパート収入などを合わせても40万円を超える程度。病気がわかる前に購入したマンションのローン月9万円や家族4人分の光熱水費、食費、通信費、各種保険を払うと、生活はカツカツで貯金はできない。最後に家族で旅行したのは6年前の東京ディズニーランド。「東日本大震災の前日だったので、よく覚えています」と言う。

子どもたちは何とか大学に進ませてやりたい。「できればそこそこいい学校に。できれば国立大学に」と希望はするものの、塾に通わせる余裕はない。長女は、地元自治体が貧困世帯などを対象に行っている無料の学習支援を受けることができたこともあり、今春、何とか希望どおりの公立高校に進学した。

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