47歳難病男性が「障害者手帳」を熱望する事情 難病が原因で転職のたびに条件が悪化した

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2人の子どもたちがいずれも、遠征費や備品代などの負担が少なくて済む文化系のクラブに入っているのは、「おカネのことで気を使ってくれているのかな」とも思う。

刻一刻と体調が悪化していることは、自分がいちばん、よくわかっている。今は通院と投薬で済んでいるが、輸血が必要になる日まで、そう長くはかからないだろう。

「せめて死ぬときはポックリと逝きたい」

マモルさんは「死ぬときはひと思いに逝かなくてはなりません」と言う。団体信用生命保険に加入しており、死亡時にはマンションのローンが全額弁済されるからだ。「今よりも血液の状態が悪くなったり、脳出血を起こしたりして働けなくなってからも生き続けてしまうと、家族に迷惑をかけてしまいます」。

現在のように問題のある企業でしか働けない以上、長患いする余裕はない。せめて死ぬときはポックリと逝かなければ、というのだ。

マモルさんは駅前の待ち合わせ場所まで自転車でやってきた。自宅からは距離があり、体力的にはスクーターのほうが便利なのだが、ケガが怖くて最近は乗っていないという。帰り際、彼が自転車にまたがると、体格がいいので車両が小さく見えた。かすり傷も致命傷になりかねないので、転倒はもちろん、壁や人にぶつかってもいけない。慎重に、ゆっくりと――。駅前の商店街の人波の中へ、肩幅の広い大きな背中が吸い込まれていった。

本連載「ボクらは「貧困強制社会」を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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