メルカリに「福沢諭吉紙幣」が出品された理由 5万円の現金に5万9500円の値がつく怪現象

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メルカリについては、さらにもう一つのポイントがあります。それは「売上金をメルカリのポイントとして購入代金に利用できる」という点です。これは「銀行を利用できない人」に大きな意味があります。

具体的に想定できるのは生活保護受給者です。生活保護受給者が金銭を入手した場合、それは収入としてカウントされるため、受給額が減る要因となります。

しかし、もし何らかの方法で、物品を手に入れた生活保護受給者が商品をメルカリで売り、それを現金にせずポイントのまま「現金紙幣」の購入に充てた場合、郵便で送られてくる現金は行政に把握できない収入となり、生活保護受給者は本来認められない「副収入」を得ることになります。弁護士が離婚事件を扱う際、相手方であるシングルマザーから「養育費を現金で送ってほしい」という要望を受けることは珍しくありません。これも同じ行政にバレないように現金を得る「副収入」の問題と言えます。

生活保護受給者はギリギリの水準で日々をやりくりしています。そんな中、不用な品物を、あるいは親の形見を売り、その代金をもし手元に残しておくことができるとすれば、苦渋の選択として収入隠しをしてしまう人がいるかもしれないことは想像に難くありません。

一人一人には事情があったとしても、こうした活動が大規模になると、現金がどこにも登場しないままポイントと商品だけが飛び交う「メルカリ経済圏」が政府の把握しきれない地下に発生してしまうことになります。この意味でも現金の出品は違法行為の温床となる危険をはらんでいます。

メルカリの迅速な対応にもかかわらず・・・?

本件に対するメルカリ側の対応はシンプルながら非常に素早いものでした。22日土曜日に広がり始めた話題について、24日には既に「現行紙幣の出品」を禁止し、現金の出品は軒並み姿を消しています。ヤフーも24日から現金が出品された事例を個別に見付けた場合に投稿を削除する方針で対応し、今後、ガイドラインを策定するようです。

問題は片付いたのでしょうか。残念ながらそうは断言できなさそうです。私が見た中でも「1万5000円の額面の商品券を1万7500円で売る」ような定価以上で商品券を売る内容はまだ存在します。直接現金を扱わないために「ロス」こそ増えたものの、やはり違法性の高い取引に使われる可能性は否定できません。また4月24日時点で、「チャージ済みSuica」を売るケースすら現れています。iTunesカード、図書券、商品券とイタチごっこで争いは続くものと思われます。

大手のネットサービス業者がこうした違法性のある行為に手を貸すことは、「地下経済」の爆発的な発達を招きかねないという危惧があります。いったん地下経済が発達してしまうと、法の公正はゆがめられ、税収は減少し、不正を企む輩が大手を振って世の中を跋扈(ばっこ)することになります。

メルカリやヤフオクは大きな収益になる可能性があるそうした取引を一切拒絶できるでしょうか。企業の社会的責任という観点から、倫理が改めて問われています。

田畑 淳 溝の口法律事務所所長

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たばた じゅん / Jun Tabata

東京大学(私法コース) 慶應義塾法科大学院卒業。2007年弁護士登録。東京と横浜の法律事務所で勤務ののち、2010年川崎市溝の口に事務所を開設。2015~2017年にかけて川崎支部幹事。中小企業の支援を中心に、不動産問題、家事事件などを幅広く手掛ける。

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