45歳東大卒シングルマザーの重すぎる試練

「激しいパワハラのせいで障害者になった」

井川優子さん(45歳、仮名)は8年間ほぼ寝たきりだ(写真:編集部)
この連載では、女性、特に単身女性と母子家庭の貧困問題を考えるため、「総論」ではなく「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。個々の生活をつぶさに見ることによって、真実がわかると考えているからだ。今回紹介するのは、東京都に住むシングルマザー45歳。東大で学んだ高学歴の彼女は、なぜ働けなくなってしまったのか。

 

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井川優子さん(45歳、仮名)は大きな電動車椅子に背をもたれ、ゆっくりと私のほうを向いて会釈する。過剰に暖房が効く部屋、膝には毛布がある。電動式の背もたれは、45度程度の角度で半分寝た状態だ。声が小さい。耳を立てながら近づくと、「今日はよろしくお願いしますね」と聞こえる。事前に体調が悪いと聞いていたが、そういう次元ではなく、やっと生きているといった状態だ。

「そんな驚いた顔をしなくても(笑)。カラダが動かないだけですから」

驚く私の表情をすぐ察し、笑いながらそう言う。半分寝たきりの彼女は上品な淑女だった。なんと東大文科III類、最終学歴は東大大学院前期課程修了という。卒業後、臨床心理士として活躍する。

しかし2008年、特定疾患外の難病である慢性疲労症候群(別名:筋痛性脳脊髄炎)を発症し、ほぼ寝たきりにまで症状は悪化。現在のような厳しい状況を迎えた。全身の筋肉と自律神経の機能が低下して、体温調節ができず、全身を激しい痛みが襲い、カラダを満足に動かすことはできない。寝返りや取材のために右を向くようなこともできない。

さらに、2人の子どもを育てるシングルマザーである。公立高校と公立中学に通う兄妹。半年前から、10年以上費やしてやっと抽選に当たった公営団地で暮らす。収入は年間200万円の障害年金だけ。

重症の井川さんは、1人で入浴も食事もできない、ほぼ全介助状態。生活は毎日訪問するヘルパーに頼る。本当に肉体的、精神的、そして経済的にも、「やっと生存している」といった状態だった。

「生活保護は子どもの進路が制約される」

「児童扶養手当の月4万7000円、それと児童扶養証書がもらえないことが本当に苦しい。病気で働けないから、支援団体と区役所から生活保護の受給を何度も言われました。けど、生活保護では障害加算と母子加算、どちらかしか選べない。障害年金が認定されると自動的に児童扶養手当が受けられなくなって、その証書がないと一人親支援のメニューが利用できなくなる。なぜか、そういう制度で、非常に苦しい。子どもの大学進学が視野にあって、生活保護だと進路が制約される。だから生活保護を受けないで、踏ん張っています」

経済的に最も負担が大きかったのは、月9万円の家賃だ。生活保護ではないので賃貸住宅を借りている。収入の半分以上は、家賃と光熱費で消えた。生活環境も悪く、10畳ほどの部屋に2台の介護ベッドがあり、狭すぎて2人の子どもが寝るスペースはなかった。現在の公営住宅に引っ越すまで、長男は押し入れで眠っていた。

「家賃4万円の公営住宅にやっと入れて、少しだけ肩の荷が軽くなりました。それまで子どもの食べ物にも困る困窮状態でしたが、最近はやっと食べて、寝るという最低限の生活環境は確保できています。私の担当医や子どもの学校の関係で、絶対に地域からは離れられない。新しい人間関係を作れるような状態ではないですし。人気の高い地区なので公営住宅は倍率700倍以上。生活の困窮に応じた抽選で、ようやく順番が回ってきました」

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