45歳東大卒シングルマザーの重すぎる試練 「激しいパワハラのせいで障害者になった」

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友達の紹介で2つ年上の男性と結婚。同じく大学院を修了して非常勤講師をする男性で、夫婦生活と家庭はそれなりに平穏だった。結婚生活で初めての壁は不定期で仕事依頼がくるフリーランスの臨床の仕事と、育児の両立が難しくなったことだ。

「勤務先は私立大学の学生相談室で、校内でリストカットとか、あと“自殺します”って予告する学生が多かった。具体的な予告になると、目を離すわけにいかないので学生相談室で保護、親御さんに引き渡す。親御さんが地方から来るのを夜まで待つとか多かった。時間的に育児をしながらは無理と判断して、転職することにしました。省庁の外郭団体でした。天下りが多い組織です」

某省庁の外郭団体に転職する。そこから転げ落ちるように人生は暗転した。

「カラダがこの状態になったのは、パワハラが原因です。客観的に原因を考え続けましたが、それしか考えられない。組織ぐるみ、執拗に執拗に執拗にやられました」

冷静沈着な井川さんは、初めて少し大きな声を上げた。

「始まりは苗字でした。私は通称で仕事してて、結婚で苗字が変わった。研究者の側面もあって名前が変わると、業績が検索できなくなる。それまで仕事では旧姓を使っていました。東京都教育委員会の仕事でも当時すでに通称を認めてくれた。でも2005年にその外郭団体に入るとき、通称使用は絶対に認めないと追い詰められた。どれだけ説明しても業務命令だから、苗字を変えろと。家庭裁判所に行けと。すごまれた。繰り返し恫喝されてペーパー離婚しました。名前だけが理由です。そうしたら旦那が古風な人で、ショックだったって。気持ちが離れてしまった。要するに私はフラれ、子どもは捨てられました」

世帯年収で1000万円は軽く超えていたが、離婚が原因で半減。約束した月10万円の養育費は一度も払われなかった。シングルマザーになって経済的、時間的に生活が苦しくなる。

勤務中に上司がワインをこぼして…

「恐ろしい職場でした。全職員の1割くらいが高学歴女性で、とにかく女性をイジメ抜く。ミスを女性に押しつける、時間内で処理が不可能な仕事量を課して恫喝する、男性上司が数人で囲んでののしるみたいな。最もひどかったのは、勤務中に自席で飲んでいたワインをこぼしてシミをつけた上司が近づいてきて“貴様を掃除係に任命してやる”と。500平方メートルくらいのワンフロアを日常業務しながら延々掃除させられて、それでちょっとのホコリや糸くずを持ってきて怒鳴るみたいな。その上司は総務部長でした」

年功序列が現存する公的機関は組織が硬直し、昔ながらの男尊女卑の意識が残りがちだ。彼女が働いた団体は女性職員へのイジメ、パワハラが常態化して、それまで何人も退職している。さらに女性というだけで正当な人事評価はされなかった。「私の在籍期間、数人いた女性職員は5段階ある人事評価で全員まず1にされました」という。どんな結果を出しても女性職員の職位は上がることはなく、男性が著しく有利な男性社会だった。

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