5億年生きたミドリムシには経営上のヒントがある | 愚直に続けたから 成功した、 ワケじゃない

5億年生きたミドリムシには<br />経営上のヒントがある

5億年生きたミドリムシには
経営上のヒントがある

出雲充
ユーグレナ社長

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2011年、EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーにチャレンジング・スピリット部門ファイナリストとして選出されたユーグレナ社長の出雲充氏。食料、栄養、地球温暖化、エネルギーにまで応用が効くミドリムシ(学名:ユーグレナ)の事業で東証一部上場企業にまで成長させ、若手ベンチャーの旗手として知られる。今や2020年にミドリムシを利用した航空機燃料の実用化を目指し、世界の栄養問題にも取り組む出雲氏だが、これまで成功してきた秘訣とは何か。飛躍のきっかけとは何か。そして、アントレプレナーに付きものの愚直さ以外に必要なものとは何かについて聞いた。


ミドリムシは生き延びるために
変化に対応してきた

――今回の企画は「愚直に続けたから成功した、ワケじゃない」というタイトルですが、まず創業から愚直に続けていることは何でしょうか。

出雲困ったことがあったときには、必ず生物に置き換えて考えるようにしていることです。たとえば、基本的にミドリムシは光合成で育ちます。でも、もしミドリムシがたくさん欲しくて24時間光を当てて増やそうとしても、光を当てた分増えるものではありません。ミドリムシには昼と夜の切り替えによって細胞分裂するという遺伝子リズムがあるからです。いわば、夜があるから昼に細胞分裂できるのです。

 これは人間と同じではないでしょうか。最近、働き方改革が叫ばれていますが、昼夜問わず仕事をすれば、当然人間の体にも精神にも無理が生じます。つまり、生物に無理なことを強いても成果は生まれないのです。生物には生きるためのリズムがある。だからこそ、困ったときには、生物にいったん置き換えて考えてみる。そうすれば、だいたい無理のない答えが見えてきます。

 ミドリムシは5億年も生き残ってきた生物です。5億年前にいた生物はほとんどいなくなってしまいました。一時期、地球を支配していた恐竜は今では残っていませんが、ミドリムシは生き残っています。それは環境が変化したときにミドリムシは滅亡しないために柔軟に変化してきたからです。ミドリムシには「変化対応能力」があるのです。

 私はそこに経営に生かせる何らかのヒントがあるのではないかと考えています。経営上の問題が発生したときは、ミドリムシに置き換えて仮説を立てて考えるようにしています。その際、大事なことは生物に置き換えて考えるために、現在抱えている問題を上手に翻訳することです。生物の知恵を導き出すには、聞く側が今の問題をどう翻訳するかが重要だと考えています。

――かつて創業間もない頃は、「ベンチャーは実行力がものを言う。成功の近道などない」と発言されていましたが、今はどこに重点を置いて仕事をされていますか。

出雲どこに重点を置くかは会社が成長していくステージによって、変わっていくものです。私たちは2005年に創業して、7年後の12年12月20日に東証マザーズに上場し、2年後の14年12月3日に東証一部に市場替えしました。

 その結果、上場の前後で私が考えることも変わってきました。たとえば、東証一部上場までの9年間は、何でもがむしゃらに引き受けてきました。すべて自分のこととしてとらえられるかどうかが大事だったのです。

 しかし、上場後に私が何にいちばん時間を費やしているかと言えば、現在の状況に対する最適な判断をすることです。ミドリムシ事業で増え続けるさまざまなオファーに対してどう答えていくのか。もし無理をしてお受けすれば、お客様にご迷惑をかけてしまうことになりかねません。そうした「変化対応力」について、どうすればいいかを今集中して考えています。


人材にスキルやスペック、
ステイタスなんて何の関係もない

――会社が成長していく中で、組織運営の難しさを実感されたことはありますか。

出雲私も仲間も会社も変化に対応できなければ、恐竜と同じことになってしまいます。今年4月に40人の新しい仲間が入社しました(グループ会社含む)。でも、12年に東証マザーズに上場したときは、全員で38人でした。今回、当時の1社分の仲間が一度に加わり、現在、全社で340人の仲間がいます。以前とは、それだけステージも優先順位も変わってきていることは言うまでもありません。

 ミドリムシのビジネスも売上高が10億円から20億円に成長するときにマザーズに上場しましたが、それが16年度で110億円、17年度で150億円を目標としています。その意味で言えば、使い古された言葉かもしれませんが、ベンチャーは社外環境の変化よりも、社内環境の変化のほうが速いのです。大企業はその逆です。私たちは大企業ではありませんから、社内環境の変化に対応できなければ、自滅してしまう。そうならないように、自分たちが変化していることを全員が認識して動く必要があります。私たちは東証一部上場企業といえども、ベンチャー企業であることに変わりありません。そこを混同せず、今、自分たちがどんなポジションにあるのかをつねに理解することが重要です。

――人材採用では、どんなところを評価されていますか。

出雲スキルやスペック、ステイタスは関係ありません。ミドリムシに詳しいかどうかも関係ありません。変化に対応していくためのイノベーションは、多様なものの中から生まれてきます。その意味で強いて言えば、今の仲間にはない何か際立ったものを持っている人には、ぜひ来ていただきたいと思っています。

 人材採用では、よく本人の人柄ややる気を見ると言いますが、そんなことすぐにわかるはずがありません。それよりも大事なことは、やる気を出しやすい環境を整えることです。人間の生産性は、人柄ややる気が20%、働く環境が80%だと考えています。私たちはベンチャー企業であり、皆は仲間です。やる気を出せる環境をつくるのがいちばん大事だということは当然のことであり、言うまでもないことです。むしろ大事なことは、仲間が日々の仕事の中でどうすれば働きやすくなるのかを細部にわたって考え、それを積み重ねていくこと。そして、その積み重ねが仲間に伝わるかどうかです。

 人間は生き物ですから、システマティックにできるものでもありません。助けてほしい日もあれば、一人で反省したい日もあります。人によって、タイミングによって千差万別です。

 たとえば、ミドリムシも、日当たりのいい場所に置けば成長します。能力が開花してパフォーマンスを発揮できるかどうかは、環境にかかっています。

 ただ、ミドリムシも日当たりがいい所に行くものと行かないものがいます。実はこれはとても大事なことなのです。日当たりのいい所で高いパフォーマンスを出していても、環境が大きく変化すれば、そこにいるミドリムシはすべて食べられてしまうかもしれません。そのとき、生き残るのは日当たりの悪いほうにいたミドリムシです。

 つまり、そうした「揺らぎ」のようなものの中から変化対応力が生まれます。最初の話に戻りますが、だからこそ、生物学的に考えることを大切にしているのです。


「もうやめよう」と思わないのは
表彰されたことを思い出すから

――EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーには11年に参加されていますが、そこで得たものは何でしょうか。

出雲創業からマザーズ上場までミドリムシに華やかなスポットライトが当たったことはありませんでした。そうすると、ミドリムシも寂しいわけです(笑)。でも、この賞で脚光を浴びることで、私たちも元気が出てくるのです。その意味で、こうしたアワードや顕彰事業というものは非常に大事だと思っています。

 それだけ顕彰事業には人の内面を変える大きなインパクトがあります。

 15年には第一回日本ベンチャー大賞で内閣総理大臣賞を受賞しましたが、なぜかそれまで内閣総理大臣がベンチャー企業を表彰する賞はありませんでした。そこで評価いただいた意味は、私にとっても仲間にとっても非常に大きいと思っています。

――それだけアワードは励みになるということですか。

出雲普段スポットライトが当たっていないものに、スポットライトを当てること。それは主催者側よりも、受賞者側のほうが想像以上に感動していることだと思います。確かに日々の仕事の中で、表彰されたことは次第に薄れていきます。しかし、何らかのハードルにぶつかったときに、実は表彰されたことを思い出すことが、大きな力となります。

 本当に苦しいときに、もうやめようと思わないのは、表彰されたことを思い出すからです。スポットライトを浴びて、皆の前で話して頑張った。だから、今の事業を簡単に投げ出すわけにはいかない。もう一回頑張ってみる。そう思えるのです。


ハードルを飛び越えるために
必要なのは小さな成功体験

――表彰されたことのないビジネスパーソンがハードルにぶつかったときには、どんな心構えでいればいいのでしょうか。

出雲昔もらった本当に小さな賞でもいいのですが、自分にとって小さな自信を一つでも持っていることが重要になります。小さくてもいいのですが、やはり成功体験が大事になります。

 たとえば、途中で仕事を投げ出す人と、そうでない人がいます。投げ出す人の事情は千差万別ですが、投げ出さなかった人の理由は実は傾向があります。それは自分がスランプのときや、苦しかったときに自分で頑張ったり、人に助けてもらったりして成果を上げた経験があるかどうか。そのとき大事なことは、最後の最後に自分のためだけに頑張れる人はそうはいないということです。自分が頑張れば、人に喜んでもらえる。そう思うことで、大きな力が生まれるのです。

 困難は大きいと乗り越えられない、小さいと乗り越えられるといったものではありません。でも、人には困難に立ち向かえる人とそうでない人がいます。それは本人の資質や心構えの問題ではなく、その人が昔、苦しいときに自分が頑張った経験、または自分のことを信じて教えてくれた先生や師匠がいたかどうかだと思っています。

――出雲さんご自身を支えてきた小さな成功体験、また師匠はいますか。

出雲私にとっての先生は、バングラデシュのグラミン銀行の創設者で06年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス先生です。これまでユヌス先生が貧困撲滅のためにやってきた苦労と比べれば、私がミドリムシの研究で数多く失敗したことなんて、とても小さなこと。ハードルにぶつかったときはそうやって、ユヌス先生の存在を頭に思い浮かべてきました。

 私は有名になりたい、あるいは、ミドリムシで大儲けしたいと思ってビジネスを始めたわけではありません。もし自分がそうなりたいと思ってビジネスを始めていたら、とっくの昔に事業を辞めていたかもしれません。私にとっては、ユヌス先生とお会いしたときに「ミドリムシなら栄養失調の子どもたちを救うことができる。頑張ってくれ!」と言われたことが、大きな励みとなっています。これまでハードルを乗り越えてこられたのも、ユヌス先生に喜んでもらいたかったからかもしれません。

出雲充(いずも・みつる) ユーグレナ社長1980年広島県生まれ。東京大学に入学した98年、バングラデシュを訪れ深刻な貧困に衝撃を受ける。2002年東京三菱銀行に入行。05年ユーグレナを設立し、東大発バイオベンチャーとして注目を集める。同年世界初のミドリムシ屋外大量培養に成功。ミドリムシ食品を事業化し、化粧品やバイオ燃料など幅広い分野での展開を目指す。12年世界経済フォーラム(ダボス会議)で「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出される。

――今後の目標を教えてください。

出雲一つは2020年までにミドリムシを利用した航空機燃料を実用化すること。そして、もう一つが栄養問題の解消です。今、バングラデシュで毎日7000人の小学生が給食(クッキーを配布している)で私たちのミドリムシを食べて、元気になっています。でも、7000人ではまだまだ足りません。やはり100万人まで伸ばしていきたい。そうすれば将来、バングラデシュの子どもたちの栄養失調をなくすことにつながるかもしれません。ユヌス先生と同様に私はミドリムシで世界の栄養問題の解消に取り組んでいきたいと考えています。

(撮影:今 祥雄)


 

“世界一”を決める起業家表彰制度
EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーとは?
 EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤーは、1986年にEY(Ernst&Young=アーンスト・アンド・ヤング)により米国で創設され、新たな事業領域に挑戦する起業家の努力と功績を称えてきた。過去にはアマゾンのジェフ・ベゾスやグーグルのサーゲイ・ブリン、ラリー・ペイジらもエントリーしている。2001年からはモナコ公国モンテカルロで世界大会が開催されるようになり、各国の審査を勝ち抜いた起業家たちが国の代表として集結。“世界一の起業家”を目指して争うこのイベントは、英BBCや米CNNなど、海外主要メディアで取り上げられるほど注目度が高い。