不妊治療は女性が受けるもの。まだ、そんな誤解をしていないだろうか。WHO(世界保健機関)の不妊症に関する調査では、男性のみに原因があるケース、男女双方に原因があるケースは、ともに24%ずつで、男性因子が絡むケースが不妊症例の約半数に上っている。しかし、日本で不妊症治療を行っているのは婦人科医のクリニックが大半で、そこに男性の姿を見ることは少ない。男性不妊症の専門家である石川病院(兵庫県姫路市)副理事長、石川智基医師は「男性不妊に関する認知をもっと高める必要がある」と話す。
不妊治療の負担が妻に偏るのは非合理
――日本でも男性側に起因する不妊症への認識が徐々に高まっています。
さまざまなメディアで男性不妊症が取り上げられるようになり、私が診療する男性不妊症の患者も増えています。しかし、不妊症は女性の問題というイメージは根強く、不妊治療には、まず妻がひとりで婦人科に行くことが多いのも現状です。
――夫婦そろって不妊治療を受けるようには、なっていませんか。
夫婦で不妊クリニックを訪れる例は、まだ少ないですね。まず女性の側が検査を受けて、そこで問題が見つからなければ、次に男性側を検査するというパターンが一般的です。多くのクリニックは平日しか開いていないので、仕事を持つ男性が診察を受けにくいという事情はあるかもしれませんが、精液所見(精子数、運動率などの検査結果)が低いと判明しても、男性はプライドもあるし、ナイーブなので、来院したがらない、という例も目立ちます。
――精液所見が悪かった場合、どうすべきでしょう。
本来は、男性側の問題の原因を突き止め、治療しなければならないのですが、そのプロセスを飛ばして、体外受精、顕微授精に行ってしまうケースも多くなっています。男性側の問題を治療で解決できれば、女性は、体外受精のために、卵巣刺激や採卵といった負担のかかる治療を受けずに済むかもしれません。不妊治療は、一般に、タイミング療法から、人工授精、体外受精と“ステップアップ”していきますが、男性不妊症を治療することで、体外受精から自然妊娠へという“ステップダウン”も可能になった例も多いのです。問題のない妻に負担をかけ、しんどい思いをさせるのは非合理だと思います。
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