不妊治療の負担は、どうすれば和らぐのか?

不妊治療のプロ、竹原・慶愛クリニック院長に聞く

 世界で広がる不妊症。中でも“晩産化”が進む日本の状況は深刻だ。今や男の10人に1人が精子に問題を抱える時代。男も不妊とは無縁ではない。世界のカップルを悩ます不妊症、その最前線を追った(この連載は、週刊東洋経済2012年7月21日号「みんな不妊に悩んでる」を加筆修正したものです)。

 不妊治療は「つらい」という話をよく聞く。健康保険がきかない治療費の経済的負担。「お腹が張る」などの排卵誘発剤による副作用の身体的負担。そして、治療がうまくいかないときの激しい落ち込みといった精神的負担……。こうした負担にどう向き合うべきなのか。不妊治療の第一人者で、今年、慶愛クリニックを開業した竹原祐志院長に聞いた。

戦国時代のお城にたとえると....

――不妊治療と一口に言われていますが、どういうものなのでしょうか。

大きく3つの方法があります。ひとつが、タイミング療法です。夫婦生活の日を間違えていないか。もしくは、生理周期が不安定でタイミングがわからないといった不安があり、薬などを使わずに自然妊娠を目指したい人向けです。2つ目が人工授精で、精子を子宮に注入します。精子の数が少ない場合のほか、精子が多くてもヒューナーテスト(性交後試験)という検査で、子宮頚管粘液の中に精子が入って、動いていない場合も適応になります。

――ヒューナーテストは、どういう意味があるのでしょう。

膣内は、外部からばい菌などの侵入を防ぐため酸性の分泌液が出ていますが、排卵時は子宮頚管粘液というアルカリ性の粘液が分泌されます。この子宮頚管粘液の中に入れなかった精子の運命は、アスファルトの路上に放したオタマジャクシ同様で、酸性の分泌液にやられてしまいます。

竹原祐志(たけはら・ゆうじ)
慶愛クリニック院長
1983年に慶應義塾大学医学部卒業後、1989年から体外受精に携わり、日本初の凍結受精卵妊娠に成功したチームで主治医を務めた。その後、渡米して排卵の機序や受精卵の遺伝子検査(現在の出世前診断検査の基礎)を研究。帰国後、体外受精・顕微授精と産科・婦人科診療に従事し、2003年から勤務した加藤レディスクリニックでは、昨年末まで副院長として年間2万件以上の体外受精・顕微授精を手掛けた。今年、豊島区池袋に慶愛クリニックを開業。

――子宮内に精子を入れる体外受精をすれば、その点が改善するわけですね。

戦国時代のお城を想像してみてください。受精までには、城を取り囲んだ精子の大群が、外堀、内堀を突破、城の階段を登って、天守閣にいる“姫(卵子)”にたどり着くというイメージで、至難の行程があります。体外受精は、お堀を越えた中庭に精子の群れをヘリコプターで運ぶのと同じと言えるでしょう。城を登るだけにすれば、精子が姫のところにたどり着く確率はずっと高まります。

3つ目は、体外受精です。これは姫を城の外に連れてきて、精子とお見合いしてもらう形になります。多くの精子から選んでもらう方法もあれば、1対1で決めてもらう顕微授精という方法もあります。

――難しいとされる不妊治療において、最大の課題は何でしょうか。

最も大事なのは女性の年齢です。何歳で不妊治療を始めるか、は妊娠率を大きく左右します。卵子の老化は世界的に35歳、国内の研究では37歳ごろから始まるとされています。45歳でも普通に妊娠できると思っている女性はまだまだ多いのですが、25歳と45歳では、卵子の状態がまったく異なります。年齢が高くなれば、体外受精を行っても妊娠しにくくなるという事実が、もっと広く認識される必要があります。

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