「少数派が発言する組織」が強い本質的な理由 P&Gが実践する「受容と活用」の凄み

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――昨年から、P&Gジャパンはダイバーシティ&インクルージョンの取り組みについて、無償で研修やセミナーの形で提供しています。これは経営視点でどんなメリットがありますか。

もともと従業員から上がってきた提案で、私も大賛成でした。P&Gジャパンはダイバーシティ&インクルージョンの分野で日本社会に貢献できる、と。それにより、企業社会の機運を高めることができます。ひいては国の経済にも貢献できるでしょうし、他社でお話しさせていただくことで、トレーナー(講師)を務める従業員の自尊感情が高まることは大きなメリットがある、と考えています。

「女性だから」「女性だけど」という議論にならない

ここまで、P&Gジャパンの人事担当者と社長に、同社のダイバーシティの狙いと実際について聞きました。
同社ではすでに管理職女性比率が3割を超えています。ただし、取材時に「女性社員」に関する話が出た時間はとても短いものでした。すでに「女性であること」は同社においてハンディではないことが伝わってきました。
P&Gジャパンが成功していることについて、外資系企業だからとか、消費財メーカーだからと、その理由を説明する人も少なくありませんが、それは違うと思います。外資系や消費財の企業は相対的に女性比率が高いこともありますが、同社ほど高い会社は少ないです。
何度か「秘訣はありますか?」と尋ねたとき、べセラ社長も臼田氏も「秘訣はありません」「まだ完璧ではない」「日々の積み重ね」「絶え間ないトレーニングが必要」と繰り返していたのが印象的でした。
たった数回の女性活躍研修をやっただけでは、多様性は進みません。それぞれの企業が、自社の事業内容や顧客特性を熟慮し、自社にとって必要なことをやっていくしかないのだな、とあらためて思いました。
あえて女性活躍の秘訣を抽出するなら、それは制度ではなく「長時間働くことが評価されない」「同じ成果なら短時間で終えた人が評価される」「生産性が大事」という、社内に根付いた文化こそが、重要といえるでしょう。
また、日本の企業社会の特性と課題を熟知した、日本人社員からの提案に基づき、米本社との交渉を承認し、ダイバーシティ&インクルージョンの研修を無償提供すると決めたべセラ社長の行動に、ダイバーシティマネジメントの実践者としての言行一致が表れています。
管理職女性比率が高く、見た目のダイバーシティが進んでいる外資系企業でも「意思決定は本社。現地法人は実行部隊」という嘆きの声を聞くことがままあります。日本でなにが必要とされているか、最も理解している人たちの「インサイト」を生かし、本社との(おそらくはかなり面倒な)交渉を奨励したべセラ社長の発言には説得力を感じました。

(撮影:ヒラオカスタジオ)

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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