「脱・駅伝」スズキが見せたマラソンの可能性 女子マラソンに差し込む明るい光

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明るい光が差し込んできた女子とは違い、日本の男子マラソンは壊滅状態だ。

ロンドン世界選手権の代表選考は20年前の水準

男子マラソンの最終選考レースとなったびわ湖では、日本勢で2時間10分を切る選手が現れず、瀬古リーダーは「大喝ですよ!」と嘆いていた。振り返ると、日本人で派遣設定記録の「2時間7分00秒」という目標を掲げていた選手はいなかった。有力ランナーは、「2時間8分台で日本人トップになれば日本代表になれる」と考えていて、その“先”を見つめているような感じはしなかったのだ。

そうした考え方がレース運びにもあらわれていたと思う。日本人の最高タイムは、高速コースの東京で日本人トップとなった井上大仁(MHPS)の2時間8分22秒、2番目は福岡を走った川内優輝(埼玉県庁)で2時間09分11秒。ふたりはロンドン世界選手権の代表が確実な状況で、最後のキップは別府大分を2時間9分32秒で制した中本健太郎(安川電機)が有力視されている。しかし、世界大会で「2時間8分台1人、2時間9分台2人」という代表選出は、20年前の水準とさほど変わらない。その間に世界のメジャーレースでは、2時間3~5分台が当たり前のように出ている(日本勢は2時間6分台すら14年以上も出ていない)。

男子がオリンピックでメダルを手にしたのは、バルセロナ五輪で銀メダルを獲得した森下広一(現・トヨタ自動車九州監督)が最後。東京五輪でメダルをゲットすることができれば、28年ぶりの快挙となるが、今のままでは「メダル」への期待はゼロに近い。

森下は1991年2月の別府大分で初マラソン日本最高(当時)の2時間8分53秒をマーク。翌年2月の東京国際を制して、同年8月のバルセロナ五輪で銀メダルに輝いた。わずかマラソン3戦でオリンピックの「メダル」に到達している。日本勢が東京でメダルを獲得するには、森下路線ともいうべき、“短期上昇型”の選手で勝負していくしかないだろう。

森下は1回目のマラソンで2時間8分台。当時の世界記録が2時間6分50秒(現在の世界記録は2時間2分57秒)だったことを考えると、現在なら2時間4~5分台の価値がある。東京五輪でのメダルを本気で考えるなら、少なくとも本番までに、「2時間4~5分台」の記録を出しておかないとメダルは非現実的だ。

2時間7~8分台の実力でメダルを狙えるような時代は、10年以上も前に終わっている。その現実から目をそらしてはいけない。では、2時間4~5分台でどう走るのか。1万メートル28分台のスピードでは、2時間5分台を出すのは難しい。逆算的に考えると、今回の東京で設楽悠太(Honda)が見せたように、中間点を1時間2分00秒前後で通過できるようなスピードランナーが本格的にマラソン参戦するしかない。

この3年間で1万メートル27分50秒を切っている日本人は、設楽悠太を含めて、佐藤悠基(日清食品グループ)、鎧坂哲哉(旭化成)、大迫傑(NikeORPJT)、村山謙太(旭化成)、村山紘太(旭化成)、大六野秀畝(旭化成)と7人いる。彼らのスピードに期待するか、マラソン2戦目で2時間9分台をマークした服部勇馬(トヨタ自動車)、社会人1年目で充実のシーズンを過ごした神野大地(コニカミノルタ)ら急成長の可能性がある23歳以下の若手に未来を託すしかないだろう。

期待感の出てきた女子と、低迷から抜け出せない男子。東京五輪は2020年夏に開催されるが、その選考レースは2019年11月~翌年3月に行われる。あと2年半ちょっとの間にどこまでタイムを短縮できるのか。メダル獲得を考えると、残された時間は本当に少ない。

酒井 政人 スポーツライター

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さかい まさと / Masato Sakai

東農大1年時に箱根駅伝10区出場。現在はスポーツライターとして陸上競技・ランニングを中心に執筆中。有限責任事業組合ゴールデンシューズの代表、ランニングクラブ〈Love Run Girls〉のGMも務めている。著書に『箱根駅伝 襷をつなぐドラマ』 (oneテーマ21) がある。

 

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