創業社長を追放したジャフコ「謀略」の誤算 経営者解任に乗り出したジャフコ。そこに落とし穴が……

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中小企業へ出資、一定の経営支援を行い、株式上場などで投資の果実を回収するのが、ベンチャーキャピタルの伝統的な手法だ。通常は、経営陣とは友好関係を維持したうえで、持ち株比率は低い水準にとどめる。

そのような日本の民間ベンチャーキャピタルの草分けで大手、野村証券グループのジャフコが投資先企業の経営者を追放する「前代未聞の事件」(ある有力ベンチャーキャピタル)が勃発した。

5月2日午前8時30分。東京・世田谷区に本社を置く保険代理店「F.L.P」(以下、FLP)を、3人の人物が訪れたのが発端だった。

3人とは、ジャフコの山田裕司専務取締役および塙洋彰・投資部投資3グループリーダー、森・濱田松本法律事務所の澤口実弁護士だ。そして3人を出迎えたのが、小林尚哉・FLP社長(当時)だった。

この後、小林氏は思いも寄らぬ事態に遭遇する。開口一番、ジャフコの山田専務がこう通告したのだ。

「小林さんにはこの場で社長を退いていただきたい」

そして間髪を入れずに、同社を担当する塙氏が言葉を続けた。

「小林社長の下で御社の業績は低迷しており、目標とする上場も凍結状態になっている。企業活動の継続さえままならない事態に陥る可能性があると言わざるをえない」

簡単な説明を終えると、3人から「株主提案書兼株主総会招集通知書」が小林氏に突き付けられた。そこには、小林氏の取締役からの解任を提案すると明記されていた。

小林氏は事情を理解できないまま9時30分開催の定例取締役会に臨んだ。すると、スタート直後に「議長、動議!」との叫び声が上がった。声の主は松谷昭男・取締役業務本部長(当時、現在はFLP社長)。

松谷氏が社長解任を提案するや、小林氏を除く取締役4人による賛成多数で小林氏は瞬く間に社長の座を追われた。大株主ジャフコと松谷氏の連携プレーによる解任劇だった。

小林氏が会社を退出するまでの監視役を務めたのが、ジャフコから業務を委任された澤口弁護士だった。段ボール箱2箱を小林氏に与え、速やかに荷物を詰めて会社を出ていくようにと澤口弁護士は指示。同弁護士が見張る中で箱詰め作業を黙々と続けた小林氏は、「罪人のように扱われた」と振り返る。「電子メールでのやり取りも不能になり、親しい人に退任の連絡を取ることすらできなかった」(小林氏)。

ジャフコによる解任の通告から会社を退出するまでの時間はわずか2時間。ソニー生命保険のトップセールスマンから身を起こし、来店型保険ショップを首都圏で20店運営する有数の保険代理店を創り上げた小林氏は、創業10年目にして予想もしない形で会社を追われたのである。

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