第一人者が語るドキュメンタリー映画の変化 主張抑えたフィクション風の作品に高い評価

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「作品作りにおいて、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアなどでは国の助成金が多い。だから映画作りにおいては、必ずしも商業的なヒットを期待されてないというか、マストにはならない。もちろん映画がヒットしてくれたらうれしいけどね。たとえば僕の作品だって、フランスやイタリア、時にドイツからの支援のおかげで制作ができている。そうするとより自由に映画を作ることができる。アメリカのようにそういった補助が少ない国では、出資者の協力を仰がないといけない状態だから、結果的に映画は『産業』となってしまう。つまりその映画が売れなければそれまで。商業的な成功を得られないと、もう映画を作ることができない」

欧州では国が助成金を出してもクチを出すことはない

1964年エリトリア生まれ。エリトリア独立戦争中にイタリアへ避難。1985年ニューヨークに移住。インド全土を旅して制作・監督をした『Boatman』が多くの国際映画祭で評価を受け、その後ドキュメンタリー監督として多くの作品が国際映画祭の賞を獲得している。2013年の『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』はヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)を獲得、三大国際映画祭でドキュメンタリー作品が最高賞を受賞する初のケースとなった (筆者撮影)

公的な助成金を受けることで、商業的な制約から解放される。しかし、国から「税金が使われている以上、こういった作品を作ってほしい」といった、違った制約を受けるということはないのだろうか。

「それはない。僕も、僕の仲間も完全な自由を与えられている。もちろんそういった機関にとっての文化的な意義に合う作品にしてほしいという思いはあるかもしれないが、かといって、こうしなきゃいけないといった圧力がかかったということはない。特に今回は、国にとってもデリケートな難民の問題を扱っているし、実際に海軍の船に乗って撮影もした。国にとっては耳の痛い問題ではあったし、撮影に関しての許可を得るのは大変だったが、実際の撮影した内容を見せろとか、確認させろと言われたことは1度もなかったよ」

2月27日(日本時間)に発表予定の米国のアカデミー賞では、長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされている。ドキュメンタリーとフィクションとの境界線を壊しつづけるロージ監督の作品が、ハリウッドの面々をも動かすことができるのか、その動向が注目される。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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