「学力が高いだけ」で医者になってはいけない 100万円と1万円の犬、どちらの命が重い?

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では、小学生ぐらいのお子さんであれば、一体どういう考え方ができる子どもが、「公共心」をもっているといえるのでしょうか。親御さんも、そこが知りたいところでしょう。そこで今回は、私が過去に出会った子どもを例に、具体的にご説明してみたいと思います。

以前、東京都内のある公立小学校へ出向き、小学6年生に法律の話をする機会がありました。そのなかで私は、大学の法律の教科書等に載っているある2つの事例をわかりやすく改変して紹介しました。

法的な罪と、道徳的な悪

(1)

「真冬のある夜、ふと家の窓の外を見ると、隣のおじさんが酔いつぶれ、道端で眠りこけていた。声をかければよかったが、面倒くさいのでそのままにしておいた。ところがその日は極寒で、おじさんは翌日凍死していた」

(2)

「ある朝、価格が1万円の犬と100万円の犬が、それぞれ飼い主と散歩をしていた。2匹がすれ違う際、カラスの大きな鳴き声に驚いた1万円の犬が100万円の犬にかみつこうとした。危険を感じた100万円の犬の飼い主は、護身用に持参していた棒で1万円の犬をたたいてケガをさせた」

まず、(1)のケースでは、泥酔しているおじさんが自分の親族ならばともかく、ただの知人であれば手を差し伸べずとも法律的には罪に問われないということを話しました。なぜなら、泥酔者を目撃した隣人は「保護責任者」には当たらないからです。もし、親族が見て見ぬふりをして、おじさんが凍死した場合、親族は保護責任者となりうるので、何らかの罪に問われることでしょう。つまり、手を差し伸べなくても、せいぜい倫理的な問題として批判を浴びることにしかならないのです。

また、(2)のケースでは100万円の犬の飼い主が、かみつこうとする1万円の犬を護身用の棒で傷つけても、「緊急避難」と見なされ、無罪となることを話しました。ただ、かみつこうとしていた側が100万円の犬であれば話は違ってきます。理論上、1万円の犬の飼い主が100万円の犬を傷つけることは、「器物損壊罪」に問われる可能性があるからです。

ところがです。私がこのように話を進めたところ、それまで「うんうん」とうなずきながら聞いていた子どもたちの幾人かが急にざわめき始め、教室内の方々から驚きや非難の声が上がり始めたのです。

話を聞いてみると、「同じ犬なのに、同じ生命なのに、それでは1万円の犬がかわいそうじゃないか、なぜ値段で差をつけ100万円の犬をひいきするのか」というのです。子どもたちの素朴な疑問はもっともであり、ひたすら学問を究めてきた私にとって、このリアクションは驚きであり、新鮮でした。

数日後、私をさらに驚かせる出来事が起こりました。授業を聞いた小学校の子どもたちが、私が当日話した講義内容について、一人ひとりコメントを書き、自宅に文集として送ってくれたのです。その中に次のようなコメントがありました。

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