なぜ再燃?各地で「社歌」が盛り上がるワケ ハードメタルからロック、ラップまで!

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事実、社員からも「みんなで、朝一番に大きな声を出すと、『やるぞ!』という一体感が生まれる」(入社25年目の男性・小郷政巳さん・53歳)、「電話を受けたり、社外に出てあいさつをするための『声出し』としても効果があると思う」(入社7年目の女性・川手智子さん・28歳)と、年代や性別にかかわらず、効果が実感されており、受け入れられている。

もちろん、今の社会や世代に受け入れてもらえるよう、工夫や進化も怠らない。40年間歌い続けてきた社歌を昨年1月に刷新。往年の社歌に込めた想いは、歌詞の一部に引き継ぎつつ、「ラップ」として大きく生まれ変わらせたのだ。

既存の社歌もジョージ夫妻による手づくりだったが、新たに誕生した「社歌ラップ」も、DJやバンド活動をしている社員有志7人による自作だ。「ラップ」にしたことでリズムとテンポがよくなり、今までにも増してノリがよく、いい雰囲気づくりに一役買っているという。社員の手づくりという点も、親しみが湧く一因のようだ。

社歌ラップを手掛けた、同社有志チームの副島隆さん(左)と笹倉歩さん(右)に挟まれてラップポーズを決める、同社の代表取締役社長・伊澤正信さん。風通しのよい社風が伝わってくる

「今日売れても、明日同じやり方で売れるとは限らない。目まぐるしいスピードで変化する社会において、つねに、変える勇気と、変えてはいけないものを見極める知性を併せ持って、進化していかなければならない。それは社歌も同じこと。『現状には満足しない』というマインドは社員にも伝わったと思う」

社歌が、社員と“想いを1つにし”、一体となって経営を進めようとする経営者と社員たちとのコミュニケーションツールとして機能していることがわかる。

高まる、社歌への期待値

「農業革命」に「社員の起爆剤」「経営者と社員の意思疎通」。目的はそれぞれ異なるが、そこに共通して存在するのは「想いを共有したい」という強い意志だ。そういう意味では、映画『海賊とよばれた男』で描かれるような往年の「社歌」の使われ方と、今「社歌」を導入する趣旨は、そう大きくは変わっていないのかもしれない。

しかしながら、メタルやロック、ラップというように、その表現方法が多様化しているのは、「企業として公的に社歌を活用する」以前に、「社員一人ひとりが、社歌の存在を楽しめる」ということを重視しているからではないだろうか。3社とも社歌の制作方法は異なったが、いずれも、歌ったり聞いたりすることで、社員が「元気や勢いが出る」「テンポやノリがいい」「気持ちがアガる」ことを第一に考えていた。そこには、「社歌」を楽しめれば、そこに投影されている「その企業自身」を前向きにとらえ、「仕事そのもの」を楽しみながら取り組むきっかけになる、との期待があるのだろう。

もちろん、「社歌」が持つ「歌の力」に過剰な期待を抱くだけでは、本来の目的達成には至らない。しかし、社員たちの心をとらえる一助にはなるだろう。今後、「社歌」の表現方法はさらに多様化し、まさにこれから、進化と広がりを見せるに違いない。

伊澤 佑美 「週刊?!イザワの目」編集長

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いざわ ゆみ

2003年上智大学卒業。編集者、ライター、PRプランナーとして、企業のオウンドメディア運営やコンサルティングのほか、広報業界向けメディアへの寄稿などを手掛けている。トレンドの裏側を取材する「週刊?!イザワの目」編集長も務める。

 

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