なぜエジプトで“味の素"が売れるのか? エジプトの食卓に革命を起こす男(上)
ひたすら地道な「行商」スタイル
朝礼というより、それは試合前に組む野球の円陣のようだった。
「まだこの会社は小さいけれど、これからエジプトの食卓に革命を起こそう」
真ん中に立つ日本人が話し終えると、この日も若いアラブ人販売員たちが勢いよく外に飛び出していった。
報道では、エジプトはモルシ大統領への反対デモで大混乱と伝えられているが、大多数の庶民の日常はなにも変わらない。味の素も平常どおりの販売活動を行っている。いつものように会社の倉庫からは商品が次々と車やバイクに積み込まれる。彼らが抱えるのは内容量3グラムの小袋が連なった束。白い顆粒の調味料「味の素」である。
エジプト味の素の社員たちが目指すのは、首都カイロの下町に点在するスーク(市場)だ。露天に並ぶ小さな商店を一つひとつ回り、1袋25ピアストル(約4円)のうま味調味料を売り込んでいく。周囲に食料品を扱う雑貨店を見つければ、もれなく足を運ぶ。手売りで現金商売。商品を補充したり、陳列品のホコリを払って目立つ場所へ置き直すなど、根気強い営業が店ごとに繰り返される。
「味の素が世界中でやってきたことです」
そう話すのはエジプト味の素食品の宇治弘晃社長(51歳)。ほかでもない、先ほどの“円陣”で檄を飛ばしていた人物である。
エジプトには革命直後の2011年に進出。以来、味の素が一貫して当地で続けるのは、庶民の台所であるスークを拠点に、低所得層の需要を掘り起こすこと。そこから知名度を高め、大手スーパーなどへと販路を拡大させる戦略だ。
「形になるまでには5年、いや10年かかるかも。『気の遠くなる仕事ですね』と言われます」(宇治社長)。
ひたすら地道な「行商」スタイル。だが、それは同社がこれまでアジアや南米で培い、市場開拓を成功に導いた手法でもある。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら