「原宿駅解体」が示す日本的観光政策の大問題 観光客が見たいのは最新鋭のビルじゃない

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建て替えられることが決まっているJR原宿駅(写真: MASA PART/PIXTA)

日本を訪れる外国人観光客の数は増えており、ここ3年ほどで日本経済において予期していなかった「ライフライン」となっている。今や、ホテルやレストラン、航空会社、小売り、博物館などの収益を支えるのは外国人観光客だ。日本政府は当初、2020年までに訪日外国人の数を2000万人に増やしたいとしていたが、その目標は今年すでに達成し、次なる目標を4000万人に引き上げた。この年末も、多くの都市で外国人観光客を見掛けることになるだろう。

外国人観光客が日本にとって重要なのは、経済的な理由だけではない。彼らは帰国した際、無料で日本の「大使」となってくれるのである。私は、今は20年以上日本に住んでいるが、今までに日本を訪れた外国人観光客で失望した人に出会ったことがない。旅行会社ジャパン・エクスペリエンスを率いるフランス人のティエリ―・マンソン氏は「日本は訪れる人に対して、もっとも大きなポジティブサプライズを提供してくれる国だ。旅行者は日本を訪れたとき、何が起こるか予想できない。そして、めったに嫌な経験もしない」と話す。

外国人観光客が口をそろえて言うこと

日本ファンの数が劇的に増えているということは、国民の多くが黄金時代は過去のもとだと考え、政府の唯一の戦略が「優雅な衰退」である国にとって非常にありがたいことである。多くの外国人観光客は、皆口をそろえて日本人に対してこう言う。「あなたの国は、あなたが思っている以上に素晴しい!」。観光客はその国の鏡だ。たとえ彼らの好みが、訪れた場所に暮らす現地の人々と異なるとしても、彼らが休暇の最中に訪れたところや、したことは、日本のいったい「何」が、世界の人にとって魅力なのかを示してくれる。

では、外国人観光客は、日本で何を探し求めているのだろう。実は、私はこの国を初めて訪れる友人に「どこに行くべきか」「何を見るべきか」とたずねられるたびに少し戸惑ってしまう。日本にはそこまでたくさんのモニュメントがあるわけではない。だいたいの建物は50年以内に建てられたものだ。寺ですら、新しいものがたくさんある。日本は、フランスやイタリアのような、数え切れないほどの古くて美しい遺跡がある国ではないのだ。

外国人観光客にとって日本の魅力は特定の場所というよりは、雰囲気そのものだろう。商店街を歩いたり、隠れ家的なレストランで食事をしたり、2分間タクシーに乗ったりするだけで、外国人をほかの惑星にいるような気分にさせてくれる。

私の父は、数年前私を訪れた際、東京で散歩しているときにこう言い放った。「なんて醜い街なんだ」。が、4人しか入れない京都の民宿レストランで4時間過ごしたのち、父はシェフとその奥さんの献身さに心底感激し、こう言った。「もし、人生がやり直せるなら、こんなシェフになるだろう」。

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