「原宿駅解体」が示す日本的観光政策の大問題 観光客が見たいのは最新鋭のビルじゃない

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日本のランドマークとも言える、JR原宿駅もそのひとつだ。この木製の駅は、1924年に建てられて以来、約100年間持ちこたえ、今や東京でもっともヒップなエリアへと導く玄関口となっている。これこそ、日本の素晴しい才能が、日本の過去と現在、そして未来をつないだ生きた証拠である。原宿駅は、歴史的、文化的、経済的に非常に大きな価値を持っている。原宿駅は、日本のいたるところで見られる古いものと新しいものの融合という、日本独特の文化の象徴なのである。

その原宿駅が、「もったいない」の象徴にもなろうとしている。日本人はまったく無関心だが、JR東日本がこの駅を建て替えることに決めたからだ。分別がなく、聞く耳を持たず、不作法なJR東日本の重役たちは、現在の建物を退屈な「近代的」建物に変えようとしているのだ。究極の皮肉は、経団連の観光委員長が、JR東日本社長兼CEOの冨田哲郎氏であるということだ。事実上、冨田氏は東京の最高に価値あるもののひとつを破壊する責任を持っているのである。

「築地魚市場」の移転も理解できない

もうひとつの例は築地魚市場だ。たとえばフランスだったらエッフェル塔のように、各国にイメージがあるとしたら、日本の場合は築地魚市場と言っても過言ではない。ここは、日本の美食のシンボルとして極めて重要だ。魚市場は築地に引き続き置かれ、著名な建築家によってリノベーションされるべきだ。そうすることで、この場所を経済的な外交策として活用するべきである。

ところが、日本は取り壊すことを急いでいるようにさえ見える。なぜなら、魚市場は不動産価値が非常に高い場所にあるためか、政治家や建設業者がどこか遠くの、ひょっとしたらさらに有害な場所に別の市場を作ることを決めたからだ。築地魚市場の観光的価値には誰も目を向けていない。小池百合子・東京都知事が市場移転に関する決定を非難した際も、それは健康上の理由であり、観光的な理由ではなかった。

今、「2つの日本」の間で争いが起こっている。1つ目の日本は、紙や木、つつましさ、直接的でパーソナルな人間関係に満ちている日本だ。それは、ゴールデン街であり、アメヤ横丁であり、商店街である。2つ目の日本は、伝統や習慣を真剣に考慮せず、街全体を再設計する残忍で、コンクリートにまみれた日本だ。この日本を率いているのは鹿島建設や大林組など大手ゼネコンや、不動産開発業者だ。

こうした企業は、外国人から見ると、醜く質の低いビルを建て、それを20年後に取り壊し、新たなビルを建設する。こうした企業が言うところの「再開発」は、北朝鮮の都市設計家も顔負けだろう。恐ろしいことに、彼らは大崎や汐留、品川といった地域の開発も行っている。

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