「原宿駅解体」が示す日本的観光政策の大問題 観光客が見たいのは最新鋭のビルじゃない

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1つ目の日本は外国人観光客が「味方」についているが、彼らはこの争いにおける自分たちの重要な役割には気がついていない。しかも、彼らは、もし日本の至る所がドバイやシンガポール、あるいは、大崎のような元気のないショッピングモールみたいなに場所になったら、ここを訪れなくなるだろう。また、虎ノ門ヒルズや六本木ヒルズのように、外国人誰もが憧れる「日本らしさ」がとうの昔になくなった場所が街の中心部に移り変わっていけば、日本を見捨てかねない。

不動産と建設業界の規模を合わせると、日本のGDPの2割近くになる。建設業界は縮小しているが、とてもよく組織立っており、自由民主党政権の意向を聞く耳を持ち合わせているように見える。一方、観光や旅行業界規模は拡大しているが、政治的にはまとまっていないさまざまなプレイヤー(ホテルやレストランなど)で構成されている。そのせいか、観光業界と建設業界の利益がぶつかったときは、つねに観光業界が負けてきた。

小池都知事は東京の未来をどう考えているのか

それどころか、観光業界が日本文化を育てようとする動きを、不動産や建設業界が壊している。これは止めなければならない。今、日本政府がしなければならないのは、外国人観光客と意見を交換し、歴史的、文化的、経済的観点から保護する価値のある場所を認識することだ。そして、こうした場所を破壊しようとする業者をそこから立ち退かせるべきである。

フランスが日本の4倍の観光客を集めている理由は、国が観光的に価値があるとみなした大事なエリアを保護しているからだ。しかし、残念なことに、今の日本の政治家からは、日本のどの部分が保護されるべきか、また、取り壊しができるのか、といった疑問は投げかけられない。

日本で目下、最もパワフルな女性である小池都知事は素晴らしいスタートを切った。だが、東京がとういう街であるべきか、ということに対する彼女の「哲学」を私はまだ聞いていない。それどころか、小池都知事はこのトピックについて、驚くほど沈黙を保っている。彼女は、まもなく建て替えられる原宿駅を見てどう思うのだろうか。たとえば、京都にあるような建設制限を東京に取り入れることはできないのだろうか。これは東京、あるいは、日本の未来における重要な課題である。

もし、彼女が真の政治家であるならば、彼女は立ち上がり、東京で保護する価値のあるものを守らなくてはいけない。有権者から直接投票で選ばれた代表として、彼女の最初の決定は、原宿駅やそのほか「危険」にさらされている場所の保護に向けて立ち上がることである。フランスの熱狂的なファンである彼女は、東京を巨大なコンクリートジャングルはなく、「持続可能な街」にするためにどうすべきか、パリやそのほかの地域が何をしているかを見て学ぶことができるはずだ。

もし小池都知事が、持続可能性という観点で東京の街の在り方を見直してくれるのならば、投票権を持っていない外国人観光客はその感謝の気持ちを「おカネ」という形で表し、彼女に投票した納税者たちを喜ばせるに違いない。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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