バター不足の原因は、「農協の陰謀」ではない 理由は極めてシンプルだ

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 バター不足はもっと単純な理由で発生するものだ。そしてそこには、日本国内で生乳を生産し続けるために、ある負担を消費者に強いている構造が存在する。それを陰謀と呼ぶのか、それとも日本にとってかけがえのないものを守るためのコストとしてとらえるか。それが問題の本質といってよい。そのことを解説していこう。

とても簡単に言い切ってしまうと、バター不足は生乳が余ることなく売り切れるような数量で計画生産されているから発生するのである。どういうことか。

生乳はメス牛が妊娠して子を産み、その子牛のために出そうとした乳を人がもらうものだ。メス牛は出産すると、乳を1日当たり20~30リットル出すようになる。これを人為的に止めることは基本的にできないので、毎日一定量の生乳が発生する。当然だが、売り先がなかったり出荷を止められたりすると、搾った生乳を貯めておくバルククーラーも満タンになり、あとは廃棄するしかなくなってしまう。2006年に牛乳生産が過剰になってしまい、生乳を貯めておくバルククーラーから生乳を廃棄し、泣いている酪農家さんが報道されていたのを覚えている人もいるだろう。

ただ、こういうときは一般市場に牛乳・乳製品が出回りすぎているわけで、どうやっても売れるものではない。こうした日配品は足が早くてすぐに品質が劣化してしまうので、価格を下げて店頭に並べたとしても、そんなに売れるものではない。作りすぎは誰のためにもならないのだ。酪農生産者団体も乳業メーカーも、余剰になった生乳をどうやって売るかというチャレンジを、指定団体制度ができてからおよそ50年もの間、いろいろやってきたのだが、結果的にそれは難しいという結論に達している。2分の1の価格になったからといって、人は牛乳を2倍飲むわけではないのだ。

結論として、市中に足りなくなることがないように、しかし余ることもないように、計画的に生産をしようということに落ち着いたのである。その50年の間に、だいたい何月にはどれくらいの生乳が消費される、12月はクリスマスがあるのでこれくらい増える、というようなデータも整備された。

計画生産の数量を「少なめ」に設定

実はこの計画生産の数量は、ここ数年、少なめに設定されてきた。これが昨今のバター不足問題のきっかけになっているという側面もある。それはなぜか。

まずは先述のように、2006年に余剰乳が発生し、少なくない酪農家が生乳を廃棄せざるをえなかった。ここで計画数字が過剰であったという判断になり、若干抑制ぎみの計画にしようという動きになった。それに加えて、酪農家が牛に与えるエサとして頼る輸入穀物が高止まりしていたため、高価なエサ代に酪農家が生産意欲をなくして減産傾向にあった。酪農家戸数も、1963年には41万7000戸を数えたが、2010年には2万1900戸、そして2016年は1万7000戸へと減少し続けている。

これまでは酪農家戸数が減った分、1軒当たりが飼う牛の数を増やす傾向にあったのでプラスマイナスが合っていたのだが、どうやらそのバランスは崩れ、生乳生産量は漸減している傾向だ。だから、計画数量を少なめにせずとも生乳生産量は減っており、生産調整する必要もなく需給バランスが取れている状態がしばらく続いていた。

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