「今の制度でまったく問題はないし、困ってもいません。なんであんな意見が出てくるのか、正直言って疑問です」
困惑したような声でそう話すのは、宮崎県でおよそ200頭の乳牛を飼う酪農家のIさんだ。まだ30代後半の若手で、搾った生乳は大手乳業メーカーの製品になるほか、県内の有力スーパーのPBミルク商品にも採用されている優良な生産者である。彼が「あんな意見」と話すのは、規制改革推進会議が検討を進めている、酪農のあり方に関する制度改革の答申だ。そこでは酪農家の所得向上や、ここ数年、よく話題になるバター不足の解消を目的とした改革が提案されようとしている。
同会議の答申を簡単にまとめると、「現状の制度では、多くの生産者が指定団体に営業や価格交渉などの販売業務を委託せざるを得ない。現状の指定生乳生産者団体制度の是非、現行の補給金の交付対象の在り方を検討する」と「バター等一部の乳製品は国家貿易で輸入されているが、不足がたびたび起こる。その原因や実体が関係者間でも十分に把握されていない。そこで、国家貿易で輸入した乳製品を国内の業者に売り渡す際に、どのように流通するのかを確認し、計画が履行されるように確認する」というものだ。
規制改革を行うとバター不足が常態化する?
しかし実際には、その規制改革が救うべき酪農家自身が、冒頭のような困惑の声を上げている。また、バター不足問題に関しては「規制改革の方向性はバター不足を解消しない、それどころか不足を常態化させるだろう」という乳業関係者の声が上がっている。
また、自民党の農林部会長を務める小泉進次郞氏は、10月14日の農林水産業骨太方針策定プロジェクトチームの会合後にこの問題について「指定団体制度は50年続いた制度で、このままでいいと思っているのは指定団体、党、現場でひとりもいないと思う。(中略)制度を守るということではなく、酪農家を守ること」と語ったという。
ところが筆者が実際に話を聞いた乳業関係者、指定団体の関係者、そして「守る」対象の酪農家の多くが冒頭のように述べているのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら