「バターが買えない」の裏にある不都合な真実 新聞報道は重要なポイントを見落としている

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バター不足の真相とは?(写真:tycoon / PIXTA)
バターの品薄状態が長く続いている。この理由を、農水省は「生乳生産量の減少」だと説明してきた。しかし、それはうわべの事情にすぎない、と農政アナリストで元農水省官僚の山下一仁氏は指摘する。山下氏の新刊『バターが買えない不都合な真実』から抜粋して、バター不足の本当の背景に迫る。

新聞報道が見落とすバター不足の原因

2014年からバターが不足している。一時期はスーパーの棚からバターが消えた。「おひとり様一つに限らせていただきます」というスーパーも出た。安いバターは普段の倍も値上がりし、洋菓子店の業界ではバターからマーガリンやショートニングに切り替えた店もある。

バターは、酪農家が生産する生乳(=搾ったままの牛の乳)から作られる。農林水産省は、2013年の猛暑の影響で乳牛に乳房炎等の病気が多く発生したことや、酪農家の離農等で乳牛頭数が減少していることなどにより、生乳の生産量が減少したためだと説明している。

しかし、2013年の生乳の生産量の減少率は、前年比2.1%に過ぎない。バターが足りなくなるような減少率ではないと思われる。これについて、各紙はおおむね次のように報道した。

生乳は乳代が高く量も多い飲用牛乳向けに優先的に供給され、残りがバターや脱脂粉乳などの乳製品の生産に回される。また、飲用牛乳向けの生乳はそのまま飲用牛乳に処理されるので、飲用牛乳向けの生乳供給量は飲用牛乳の消費量と同じである。

このため、飲用牛乳の消費量(飲用牛乳向けの生乳供給量)の減少率よりも生乳の生産量の減少率が大きいときは、バターや脱脂粉乳などの乳製品向けの生乳の供給量は、全体の生乳生産量の減少率よりも大きく減少することになる。2013年の飲用牛乳向けの生乳供給量は前年比1.1%の減少で生乳生産量の減少率2.1%がこれを上回ったため、バターや脱脂粉乳などの乳製品向けの生乳の供給量は、8.1%も減少することとなった。

おそらく農林水産省は、そのように説明したのだろう。ほとんどのメディアは、これがバター不足を招いたと解説した。表面的には、必ずしも誤りではない。

しかし、バター不足の報道が見落としている重要な点がある。

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