トランプ勝利の根因、「反知性主義」とは何か

「知能」が「知性」を打ち負かした

当時の夫人であるイヴァナ・トランプ(右)と写真に納まるドナルド・トランプ(1988年7月撮影)。米国の次期大統領は根っからのビジネスマンであり、「知性」ではなく「知能」の人だ(写真:ZUMA Press/amanaimages)
世界を驚かせたドナルド・トランプの大統領選勝利。この選挙の流れに影響したのが、クリントンなどの「エリート」や「知識人」、「エスタブリッシュメント」に対する反感だった。それは何も、今にして起こったわけではなく、こうした「反知性主義」こそがアメリカの底流であり、本質なのだ――。50年前、コロンビア大学教授・リチャード・ホーフスタッターは著作「アメリカの反知性主義」において、こう洞察した。
果たして、トランプ当選は、「未知の領域」の出来事か、「歴史の必然」なのか。壮大なアメリカ史に迫り、ピューリッツァー賞も受賞したこの名著を2003年に翻訳し、日本に紹介した渋谷教育学園の田村哲夫理事長に、トランプ当選の歴史的意義を聞いた。
(敬称略)

 

田村哲夫(たむら てつお)/1936年東京生まれ。1958年東京大学法学部卒業。住友銀行を経て、1970年学校法人渋谷教育学園理事長に就任。文部科学省中央教育審議会副会長、日本私立中学高等学校連合会会長、日本ユネスコ国内委員会会長など公職を歴任。著書に『心の習慣』(東京書籍)、『教えて!校長先生 渋谷教育学園はなぜ共学トップになれたのか』(中央公論新書)、訳書に『アメリカの反知性主義』(みすず書房)

――アメリカの反知性主義とはどのようなものか。

アメリカには知的な生き方や知識層に対する憤りがあり、そういった生き方の価値を否定し、矮小化しようとする動きが常に存在してきた。進化論などの科学を否定するキリスト教の福音主義(聖書にもとづく信仰を強調するプロテスタントの考え方)であったり、共産主義のみならず知識人全体を攻撃したマッカーシズム、ビジネス重視の実利主義など、建国以来、知的権威やエリートとされる層を批判の対象とする潮流があり、折々に先鋭化して、歴史の舞台に表出してきた。

1900年の初頭、ヨーロッパから大量の移民が押し寄せ、貧困が深刻化、格差の拡大と同じタイミングで、反知性主義が台頭したが、ここ最近はラテンアメリカからの大量の移民流入などを背景に同様の機運が高まりつつあった。

反知性主義はアメリカの「本質」

――今回のトランプ勝利の背景にもこの流れがあると。

反知性主義はアメリカの「本質」だ。歴史的に振り子のようにその流れは顕在化する。ここで区別しなければならないのは「知能」(インテリジェンス)と「知性」(インテレクト)だ。「知能」は物事を把握し、解決法を考え、実行する能力であり、「知性」はその上に、「人間性」や「つつしみ深さ」「畏敬の念」といった要素を加えた力、すなわち、吟味し、熟考し、疑い、理論化し、批判する力を指す。つまり、知性とは、知能が「評価した」結果を客観的に「評価する」力ということになる。アメリカにおける反知性主義とは、「知能」を重視しても「知性」を軽蔑し、さげすむことであり、学者や科学者、ジャーナリストなどが批判の矛先となってきた。

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