日米株価暴落の「Xデー」が現実になるとき 市場は憂慮すべき事態を織り込んでいない

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今年の米国株は、例年であれば株価が調整する10月前半にほとんど下げなかった。つまり、株価は例年と違う動きになっていたことになる。9月以降、ダウ平均株価は1万8000ドルから1万8350ドルのきわめて狭いレンジでの推移が続き、いわゆるトレンドレスの状態に陥った。

しかし、レンジ相場が2カ月も続けば、さすがに方向感が出てくることになる。11月は本来、株価が上昇に転じるときであり、安値を仕込む絶好のタイミングである。

今年はそのような押し目がない。むしろ、高値圏での推移が続いている。そして、直近ではその上昇トレンドにも陰りが見られ始めている。このように、今年は例年と違う動きにあるため、いまから調整にはいってもなんらおかしくはない。

一方、これまでのドル高基調の中で、金価格が底堅さを見せていることに注意を払いたい。米長期金利の上昇で一時急落し、水準を大きく切り下げた後は、むしろ堅調な動きが続いている。これは、中国やインドなどの実需の回復に加え、投資家がリスク回避姿勢を強めていることの証左である。

「株価暴落」に備えるときが到来か

S&P500が7営業日続落したように、この数日間で市場の様相が一変したかのようである。

しかし、筆者は「実際にはそうなることが決まっていた」のだと思われる。クリントン氏のメール問題が完全に片付いていない中で選挙戦が進められてきたことが、投票日1週間前の混乱の原因である。問題がクリアにならないのであれば、このような事態になる可能性は考慮に入れておくべきだった。

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それでも民主党はクリントン氏を候補者に選択し、国民の多くが同氏を大統領にふさわしいとして支持している。しかし、このような「米国民の感覚」に対しても、筆者には強い違和感がある。

つまり、「大統領にふさわしい人物」を選出できていないこと自体、米国の弱体化のリスクを感じざるを得ないのだ。クリントン氏・トランプ氏のいずれが大統領になろうとも、米国内の混乱は当面収まらないことだけは確かであろう。

今週から来週にかけて、いろいろなことが起きそうだ。それらの事象に対して驚く必要も慌てる必要もない。市場の向かうべき方向は決まっている。いまはリスクを回避し、株価暴落と言う「最悪の事態」に備えるべきである。日米ともに割高な株価は、いずれ調整される。大統領選はそのきっかけになるだけであり、バリュエーション面(複数の指標から見て割高か割安から株価を判断)での株価調整は必然であることを再確認しておくべきだ。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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