大坂の陣、豊臣方「真の敗因」は何だったのか 「埋められた堀」より致命的だった弱点は?

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では、大坂の陣の「本当の敗因」とは何か? それはズバリ、豊臣秀頼の「遅すぎた誕生」です。

【敗因5】豊臣秀頼の誕生が遅すぎて、秀吉から学べなかった

豊臣秀頼は「太閤秀吉」の晩年の子で、生まれたときに秀吉はすでに57歳。後継者として生まれながらも、5歳で父を失いました。そのため、彼は偉大な天下人である父の「数々のノウハウ」を受け継ぐことができなかったのです。

豊臣秀吉は「ひとたらし」の名人ですが、こうした狡猾な「①人心掌握術」を身近で見て学ぶ機会も、秀頼にはありませんでした。

また、「②戦いのやり方」を知るチャンスもなく、「大坂の陣」を迎えるまでの秀頼の戦歴はゼロ。対して、家康は言うまでもなく「歴戦の猛者」で、実力、経験ともにその差は歴然でした。

そして、父秀吉には、竹中重治(半兵衛)、黒田如水(官兵衛)といった「優秀なブレーン」に加えて、加藤清正、福島正則といった「子飼い」の武将たちが両腕としてついていましたが、秀頼はそうした「③優秀な人材」に恵まれませんでした。さらに、母「淀殿」の強い影響により、自由に意思決定ができなかったともいわれています。

①人心掌握術」「②戦いのやり方」「③優秀な人材」その3つを父秀吉から生前に継承できなかったことが、豊臣秀頼の大坂の陣における「本当の敗因」ではないかと思います。

「天下の豊臣家の誇り」を守り、滅んでいった

大坂の陣より少し前、徳川家康は、成人した豊臣秀頼に京都の二条城で対面しました。そのとき家康は、想像以上に立派に成長し、威厳に満ちた秀頼の武者ぶりに「強い脅威」を抱き、これが「後に大坂を攻める遠因」になったともいわれています。

この会見では、加藤清正が陪臣として秀頼に従い、何かの場合には「家康と刺し違える」覚悟を見せたという話は有名です。こうした豊臣恩顧の武将たちの存在も、家康には脅威だったのかもしれません。

秀吉の死後、豊臣家は徳川家康の台頭によって「没落の一途」をたどっていました。成長期の豊臣秀頼が目にしていたのは、家族や家臣たちが日々この屈辱にじっと耐え忍ぶ姿です。

やがて大人になった秀頼は「彼らの思い」を背負い、宿敵家康に反旗を翻します。それが絶望的な戦いであることを知りつつ、最後まで家康に屈することなく戦い抜きました。

そこまでして彼が守ろうとしたものは何か、それは父が築き天下にその名をとどろかせた「豊臣家としての強い誇り」にほかなりません。もし、父親譲りの資質をもった秀頼が、さらに経験と知識を父秀吉から継承できていれば、その後の歴史は大きく変わっていたかもしれません。

このように「過去の日本史の中にある経験や知識」は、「組織の永続」を考えるうえで、あるいは「ビジネスパーソンが生き抜く処世術」を身につけるうえで、大いに参考になるものです。

過去の偉人たちの「成功と失敗」に学ぶことで、ぜひビジネス、そして人生の勝者になってください。

山岸 良二 歴史家・昭和女子大学講師・東邦大学付属東邦中高等学校非常勤講師

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やまぎし りょうじ / Ryoji Yamagishi

昭和女子大学講師、東邦大学付属東邦中高等学校非常勤講師、習志野市文化財審議会会長。1951年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。専門は日本考古学。日本考古学協会全国理事を長年、務める。NHKラジオ「教養日本史・原始編」、NHKテレビ「週刊ブックレビュー」、日本テレビ「世界一受けたい授業」出演や全国での講演等で考古学の啓蒙に努め、近年は地元習志野市に縁の「日本騎兵の父・秋山好古大将」関係の講演も多い。『新版 入門者のための考古学教室』『日本考古学の現在』(共に、同成社)、『日曜日の考古学』(東京堂出版)、『古代史の謎はどこまで解けたのか』(PHP新書)など多数の著書がある。

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