ベゾスの右腕を務める32歳デザイナーの正体 「ワシントン・ポスト」を支えるキーパーソン

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こうした巨大プラットフォームに対する新聞社の視線は穏やかになっている。マーバーガー氏は、2015年のインタビューではフェイスブックは間違いなく競争相手だと語っていた。それがいまはフェイスブックについて、「脅威かもしれないが、すぐにうまくやれるようになる」と語っている。プラットフォームが「ワシントン・ポスト」のような本格的な報道機関とそうではないでたらめなニュースメディアを同じように扱っているということから、ニュースにとって、人々の信頼を失うことの方が心配だと同氏は主張する。「フェイスブックはたしかに抜け目がない。しかし、どんなプラットフォームのアルゴリズムにも限界がある。だから『信頼を高める方法』を製品の課題と見なすことができる」とマーバーガー氏はいう。

「ワシントン・ポスト」はグーグルの「トラスト・プロジェクト」に参加している。これは、責任あるジャーナリズムがプラットフォーム上で大衆メディアとの違いをどのように示すことができるのかを探るものだ。マーバーガー氏はまた、人々が考えもしないニュースの居場所を見つけて開拓するべく、視野を広げている。現在、声で操作するアマゾンのスピーカー「エコー」の活用法を探っているのもその一環だ(ベゾス氏の関心との相乗効果が見込める分野でもある)。

ジャーナリズムのモデルを作りなおす力になりたい

マーバーガー氏はさらに、中国から入手した部品を利用して、声や動きに反応して時間、天気、ニュース速報などを表示する「スマートミラー」を開発した。今は同氏のオフィスに置かれており、具体的な計画があるわけではない。しかし、イベントで展示したらどうか、あるいは、朝のひげそり時に楽しめるようにバスルームに設置するのはどうだろうかとマーバーガー氏は思いを巡らせているようだ。

長期のビジネスモデル戦略の考案に取り組んでいるというように、事業運営に対する自由度が確実に増えたのは、ベゾス氏の小切手のおかげである(非公開企業であるため資金繰りは公開していない)。一方で幹部たちは、この資金がいつまでもあるわけではないことをわかっていると話す。「ワシントン・ポスト」は奇抜な製品をいくつか公開しているが、マーバーガー氏によると、新製品の開発プロセスでは常に売り上げが検討されているという(もっとも、その売り上げの概念は拡大され、口コミとオーディエンスのグロスも評価に含まれた)。「我々は金を火にくべるように無駄遣いしているとよく誤解される。しかし、そんなことはない。ジェフ(ベゾス氏)はとても倹約家だ。それに、『これは本当によいアイデアなのか?』と考えている」と同氏は語る。

「ワシントン・ポスト」はある意味、その成功に対する犠牲も払ってきている。メリッサ・ベル氏、コーリー・ハイク氏、ジュリア・ベイザー氏など、ワシントン・ポストのデジタル移行の中核にいたマーバーガー氏の同僚が、何人も退社し、ほかのメディア企業に移っているからだ(とはいえ、ギルバート氏やディッカー氏など人材の補充は行っている)。

マーバーガー氏もヘッドハンティングの候補者になっていることだろう。しかし、「ワシントン・ポスト」には、同氏がよそでは手に入れることができない取り合わせがある。「ジェフ(ベゾス氏)のような人はどこにもいない。仕事に飽きる日が来たらやめるかもしれない。でも、連絡してくる人たちは眼中にないよ。僕はジャーナリズムを続けたい。ジャーナリズムのモデルを作りなおす力になりたいんだ。ジャーナリズムの組織でこのポスト以上のところはないよ」とマーバーガー氏はいう。

Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)
Photos by Marvin Joseph/The Washington Post

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DIGIDAY[日本版]編集部

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