ベゾスの右腕を務める32歳デザイナーの正体 「ワシントン・ポスト」を支えるキーパーソン

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それでも、同氏の仕事がその人物を物語っている。マーバーガー氏がモバイル向けデザインのディレクターとして2010年に「ワシントン・ポスト」に加わって以来、彼が関与していないデジタルの計画を見つけるのは難しい。ベゾス氏が同紙を買収すると、マーバーガー氏はすぐにベゾス氏が少数の上級幹部と隔週で開く電話会議に加わった。「フレッド・ライアン(CEO)を除くとジェフと継続的に深く話をしている人はあまりいない。ジョーイがなにか面白いトピックを見つけた時点で、それはジェフにとっても興味のある事柄になるわけだ」と語るのは、「ワシントン・ポスト」の戦略的イニシアチブ担当ディレクター、ジェレミー・ギルバート氏だ。

現代の新聞社ではジャーナリズムそのものの質と同じくらいパッケージングと流通が重要だということは、いまや広く受け入れられている。これがデジタル報道機関におけるプロダクトディレクターの台頭につながった。以前なら、ウォーターゲート事件を暴き、腐敗した大統領の失脚に尽力した新聞という事実だけで十分だったかもしれない。しかし現在、「ワシントン・ポスト」は、自らをメディア企業であると同時にテクノロジー企業だと考えている。そして、マーバーガー氏はプロダクトディレクターとして、アプリからWebのデザイン変更や広告製品にいたるまで、編集とビジネスの両方の取り組みに携わってきた。

社内セラピストとしての役割

マーバーガー氏の影響力について、同僚たちは、テクノロジーとニュースという2つのレンズで「ワシントン・ポスト」を理解できると語る。すべてのプロダクトディレクターがこのような能力をもっているわけではない。たくさんの報道機関がテクノロジーを活用することでより多くのオーディエンスにリーチできると考えているが、テクノロジーの担当者と記事を書く担当者の考えをひとつにしようとすると、思うようにいかないことがある。

「消費者と広告の両面に注意を払う必要があることを彼は理解している」と語るのは、「ワシントン・ポスト」の広告製品とテクノロジーの責任者で、マーバーガー氏と密接に協力しているジャロッド・ディッカー氏だ。「彼はワシントン・ポストの会社作りの一つひとつを見ている点でほかにいない存在だ。彼以外のプロダクトディレクターたちは、その時々に盛り上がっているニッチな話題に集中する。ジョーイはこのブランドを支えるたくさんの柱のすべてに適切な量のリソースを配分することができ、非常に柔軟性がある」とディッカー氏は語る。

編集サイドを担っているギルバート氏によると、人間はアナリティクス型かクリエイティブ型かのどちらかだとする考え方にマーバーガー氏は当てはまらない。ギルバート氏は次のように語る。「ジョーイは非常に高いレベルでその2つを両立させることができる。物語を語るとはどういうことなのかを把握できる人間でありながら、そこに製品による向上の余地があることも理解できる。ジョーイはゲーム屋とも、ニュースレターシステム屋とも、データサイエンス屋ともいえない。仕事が実に幅広いのだ」

そのような柔軟さが重宝されるのにはいくつかの理由がある。柔軟性によって製品の要件の実現と効率的な開発を確実なものにできる。会社のニュースとテクノロジーの両面を代表できる人物がいれば、その人物がひとりでたくさんの役を務めることができることから、会議は徐々に規模が小さく、回数も少なくなる。マーバーガー氏は最近、「ワシントン・ポスト」のニュースレターの新しい社内ツールに関与した。このプロジェクトによって、マーバーガー氏がテクノロジーのノウハウをもち、同時にジャーナリストが使用するにはどこまで簡単なものにする必要があるのかも把握していることを証明した。

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