マニュアルでは教えられないこと
京都花街は、高付加価値のおもてなし産業です。お座敷には、メニューも価格表もありません。10代の舞妓さんでも、親子以上に年齢の離れたお客様の気持ちを察し、その期待にかなったサービスを提供することを求められます。
「若くて、かわいいから」あるいは「伝統文化だから」といった理由だけで、舞妓さんに人気があるのではありません。舞妓さんが「京都花街だからこそ」と期待されるようなおもてなしを提供しないと、お客様の足は遠のいてしまいます。
ですから、企業と同様に、いかに現代の若い人たちの能力を育てるのかということは、京都花街にとって、生き残りをかけた大きな課題なのです。
さらに、この課題には、マニュアル教育では対応することができません。
京都花街では、年齢も性別も国籍も異なるお客様へ、臨機応変なサービスを提供することが求められます。国賓待遇の方々を一流料亭で、観光客をPRイベントの会場で、なじみのお客様の金婚式でと、毎日の現場はさまざまですから、その場面によってお客様の満足につながる要因も異なります。
では、このような多様な場面でお客様の気持ちを察し、適切なサービスを提供できるようにするために、舞妓さんはどのようにOJTされているのでしょうか?
現場の様子をご紹介しながら、マニュアルでは教えることができない能力を、いかにOJTで効果的に育成していくのか、考えていきましょう。
おいど(お尻)に、手を
舞妓さんたちの装束で有名なのは、だらりの帯です。この長くて豪華な帯を結ぶと、後ろのたれは膝の裏くらいまでありますから、彼女たちが日本舞踊を披露すると、とても華やかです。
このだらりの帯、仕込みさん(舞妓さんにデビューする前、約1年間の修行期間のこと)のときには、結ぶことはありません。7メートルを超える西陣織の豪華な帯、それに友禅染の振袖・裾引きの舞妓さんの着物。これら10kgを超える装束は舞妓さんらしさの象徴ですが、舞妓さんとしてデビューしてから、現場でその取り扱いに慣れていくことが必要になります。
舞妓さんたちは、お座敷で日本舞踊を披露するだけでなく、ビールやお酒を運ぶなど、接客に伴うこまごまとしたこともします。さらに装束のままで、車や飛行機に乗って移動することもあるのですから、いつでもどこでも舞妓さんらしい立ち居振る舞いができるようになるまでは大変だろうと、容易に想像していただけると思います。
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