マザー・テレサの「黒い噂」を追う男の言い分 なぜ平和と慈愛の象徴を批判するのか

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そして彼はこう付け加えた。「この神話の正当性が問われるべきだと思った」

「苦しみを礼賛」していた

何百時間にも及ぶ調査を実施したチャタージーは、マザー・テレサが創立した「神の愛の宣教者会」の運営施設が「苦しみを礼賛」していたことを知った(彼は2003年の著書に詳しく記している)。子供たちはベッドにくくりつけられ、瀕死の患者にもアスピリン以外何も与えられなかった。

マザー・テレサは質素と倹約を極端なまでに信奉し、皮下注射器を使いまわし、患者たちが互いの面前で排便しなくてはならないような粗野な設備を許容していたと指摘しているのは、チャタージーだけではない。

しかし、マザー・テレサのコルカタでの活動が欧米社会で高く評価されていることをチャタージーが知ったのは、1985年に英国に渡り、地方の病院で仕事をするようになってからだ。

記録を正す旅は続けると語ったアループ・チャタージー氏(写真:Ko Sasaki/The New York Times)

1994年、チャタージーは作家で映画製作者のタリク・アリが経営するバンドン・プロダクションズに接触した。最初は電話で十数分話しただけだったが、英国の公共テレビ「チャンネル4」の編集者からマザー・テレサの活動を暴露する番組を撮りたいというオファーを受けた。そして、ジャーナリストのクリストファー・ヒッチェンズをMCに迎え、マザー・テレサの疑惑を厳しく追及したドキュメンタリー番組「Hell’s Angel(地獄の天使)」が制作された。

翌年、チャタージーは世界中を飛び回り、神の愛の宣教者会の内情を知るボランティアや修道女、作家らに面会した。100以上のインタビューを行った結果、そこで働いていた人々は医療研修をほとんど受けず、10~20年も前の医薬品を患者に投与し、排泄物で汚れたタオルを食器を洗うのと同じシンクで洗濯していたと、複数のボランティアが証言した。

それ以前に同じような批判が上がった際は、神の愛の宣教者会は否定はせず、修道女たちは問題に取り組んでいると述べていた。今日では、肉体的、精神的な障害を抱える患者のケアについて言語療法士や理学療法士から定期的に指導を受けていると彼らは主張している。また、手術やより高度な治療を必要とする患者を近隣の病院に連れていくことも頻繁にあるという。

「マザー・テレサがいたころは、理学療法士の訪問もあったが、十分な人数がいなかった」と、神の愛の宣教者会の広報担当者、スニタ・クマールは言う。

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