株価上昇がもたらす、バブル増殖のメカニズム 本業不調でも、保有株が上昇すると経常利益は増加

✎ 1〜 ✎ 18 ✎ 19 ✎ 20 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

現在の日本の会計制度では、企業保有株式の時価が増大すると、経常利益が増加する仕組みになっている。そのため、株価上昇で企業利益が見かけ上増加し、それがさらに株価上昇を煽るというバブル増殖メカニズムが働く可能性がある。

株価上昇による利益増は、統計でも確かめられる。3月1日に公表された法人企業統計によると、2012年10~12月期の全産業の営業利益は10兆6084億円で、前年同期比5.5%の減となった。しかし、経常利益は12兆7901億円で、7.9%の増になった。これは、株価上昇の影響であると考えられる。以下では、株価上昇が経常利益を増大させるメカニズムについての定量的な分析を行おう。

最初に、制度を概観しておこう。保有有価証券の評価の原則は、時価評価だ。とくに、企業が売買目的で保有している有価証券(流動資産に分類されている)は、期末時点での時価をもって貸借対照表の価額とすることになっている。そして、増加額は、営業外利益とされる。

ただし、すべての株式が時価評価されるわけではない。固定資産として分類される「投資目的株式」の中には、時価評価されないものもある。とくに、「子会社株式」は、取得原価をもって貸借対照表価額にすることとされている。

以下の分析では、利益については法人企業統計の全産業(金融業、保険業を含まない)データを用い、保有株式額については、日本銀行資金循環統計の非金融民間法人企業データを用いた。しかし、後者のうちどれだけが時価評価されているのかは分からない(保有株式額についての法人企業統計のデータでは、売買目的と投資目的が区別できる。しかし、後者のうちどれだけが時価評価されているかは分からない)。

なお、10年度末における企業の保有株式は、法人企業統計によれば、流動資産中のものが4兆6279億円、固定資産中にある投資有価証券が191兆2444億円だ。他方、この時点での資金循環統計における非金融民間企業の保有株式は71兆0857億円だ。両者は食い違っているが、これは、評価方法の違いによるものと考えられる。

さて、企業の利益として、営業利益と経常利益が区別される。前者は本業から生じる利益であり、後者はこれに本業以外の損益(主として金融収支)を加えたものだ。したがって、つぎの関係が成立するはずである。

(経常利益)=(営業利益)+b×(保有株式時価増加額)+C

ここで、b、Cは定数であり、bは保有株式時価増加額のうち経常利益に反映されるものの比率、Cはその他の営業外損益を表す。時価評価される株式の比重は、時点によって変動するだろう。また、保有株式は売買によっても変動する。さらに、営業外損益も一定とは限らない。こうした事情があるので、右の式は、厳密な式ではなく、誤差項を含んだものとなる。

次ページ本業から生じる営業利益が大事だが…
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事