「3つの傲慢」が日本のFinTech普及を阻む 大手金融機関がベンチャーに見限られる日

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自分たちは何のアイデアも持たないまま、スタートアップ企業を呼びつけて、「うちにどんな提案ができるの?」と唐突に尋ねる。あるいは、「まずは、基礎知識の習得から」といって、勉強会を開かせる。それが終わると、「○○部にも同じ話をしてくれる?」と繰り返し勉強会の開催を要望する。

大手金融機関とスタートアップ企業との間で実際に起きていることであり、大手金融機関がスタートアップである相手を見下している証拠だろう。基幹系システムの開発で億単位の取引がある大手メーカーやシステム・インテグレーターであれば、二つ返事でOKするかもしれないが、スタートアップ企業には何の義理もない。

ましてや、何度も打ち合わせを要求した揚げ句、何もコミットしないまま、自分たちのためだけにカスタマイズを要求するようなこともあるようだが、言語道断である。

「金融の常識」はスタートアップの非常識

(2)既存事業と同じ指標・尺度で判断してしまう

通常、銀行の既存事業における投資では、9割以上の成功確率が求められ、失敗は許されない。そのため、失敗確率を限りなくゼロに近づけようと、定量分析や論理的なチェックを何度も積み重ねる。

しかし、スタートアップ企業との提携において、この考え方はまったく役に立たない。未知の情報が多過ぎて、分析や論理によって不確実性を下げることは非常に困難である。そのうえ、「10年後には、3割の企業が存在すらしない」と言われる中で、提携や出資で成功する確率は極めて低い。したがって、ベンチャーキャピタルは、相対的に小さな金額を複数の企業に投資し、10のうち9が失敗しても1つが成功すればすべて回収できるモデルを追求しているのである。

既存事業と同じ指標・尺度で判断しようとするならば、そもそも「オープンイノベーション」など不可能なのである。

(3)事例主義・実績主義の慣行から抜けられない

仮に金融機関とスタートアップ企業が具体的な提携アイデアで合意できたとしても、その次に待ち構えているのが、金融機関内での事例主義・実績主義である。スタートアップ企業は設立間もなく、売り上げも大きくない、ましてや金融機関との協業実績があることなどまれである。しかし、伝統的金融機関では、そういった実績がない企業との取引をリスクが高いものとして排除する仕組みができあがっている場合が多い。

実績を作るためには提携をしたうえで実証実験などを行う必要がある、しかし、実験を行うためには実績が必要である。そういった「鶏が先か、卵が先か」というジレンマを抱えた状態のまま、時間ばかりが過ぎていくケースである。

スタートアップ企業にとって、伝統的な金融機関との連携は、いくつかある成長のための選択肢のひとつであり、それが絶対ではない。限られたリソースで日々奮闘している彼らにとって、時間ばかりがかかり、自社の成長につながらない相手と悠長に議論をしている暇はないのだ。

優れた技術、革新的なサービスを持つスタートアップ企業は、大企業に広がる空前の「オープンイノベーション」ブームに乗って、今や引く手あまたである。

伝統的な金融機関が、「昔の感覚」が抜けないままでスタートアップ企業と付き合おうとすれば、彼らのほうから三行半を突きつけられる。大手金融機関にとって新たなライバルとなる流通・小売企業やネット企業に、革新的なアイデアや技術をさらわれてしまうというシャレにならないオチが待ち構えているのである。

城田 真琴 野村総合研究所 DX基盤事業本部 兼 デジタル社会研究室 プリンシパル・アナリスト

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しろた まこと / Makoto Shirota

2001年に野村総合研究所にキャリア入社後、一貫して先端ITが企業・社会に与えるインパクトを調査・研究している。総務省「スマート・クラウド研究会」技術WG委員、経済産業省「IT融合フォーラム」パーソナルデータWG委員、経産省・厚生労働省・文部科学省「IT人材需給調査」有識者委員会メンバー等などを歴任。NHK Eテレ「ITホワイトボックス」、BSテレ東「日経プラス10」などTV出演も多数。著書に『FinTechの衝撃』『クラウドの衝撃』 『エンベデッド・ファイナンスの衝撃』『決定版Web3』(いずれも東洋経済新報社)、『デス・バイ・アマゾン』(日本経済新聞社)などがある。

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