「就職ナビ」の肥大化が学生を疲弊させている 新卒採用市場で続く最大の構造問題とは?

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一律の選考解禁日を止めるべき理由は他にもある。先に述べた通り、大学の難易度は縦に広がり、大学生であれば一定以上の職業能力を持っていると一括りに論じられなくなっている。そうであれば、大学ごとに就職活動のあり方があってしかるべきだ。高卒生の就職活動のように、学校側が企業を受け付けて、懇切丁寧に就職斡旋する大学があってもいいだろう。大学が企業と連携して授業を行い、企業と学生の双方が合意すれば、そのまま就職していくこともありうる。

また、インターンシップはすでに採用の1ステップに位置付けられつつあるが、多くの企業がそのことを公表しておらず、学生が戸惑うケースが少なくない。インターンシップを採用に直結させることを公に認め、企業側も堂々と宣言してインターンシップ生を募集すればよい。

建前ではなく、正しい情報公開で学生が疑心暗鬼にならない就職活動ができるようになってほしい。そうすることで、学生は自分を採用したいと思ってくれる企業にだけ受験し、地に足の着いた就職活動ができるようになるのである。

企業も闇雲に早期内定は出さない

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こうした提案をすると、「さらに青田買いが横行する」「学業を圧迫する」という反論が予想される。それはほとんど杞憂だと私は思っている。

そもそも青田買い、すなわち在学中の早い時期に就職が決まることは、悪いことだとは私は全く思わない。それによって、学生が自分のやりたいことに打ち込めることもあるだろうし、就業意識を早くから持ち、そのための準備を在学中の早くから始めることもあるだろう。もちろん、学生時代にしかできないことに集中しても良い。

また、その年々によって採用計画も変わるので、多くの企業は闇雲に早く出すということはしないだろう。どうしても欲しい少数の学生層だけに早く内定を出すことも予想される。いったん内定を出したものを企業側は一方的に取り消すことができないという約束事は必要だろうが、市場原理に基づいて納まるべきところに納まるのではないかと私は考えている。

学業圧迫については、一律的な選考時期を取り決めない方が、むしろ学生への時間的な圧迫を軽減させると思う。就職活動の時期を遅らせることで学業が圧迫されないというのは幻想だ。昨年就職活動をした2016年卒生を対象に、「選考時期が遅れたことにより学業に専念できる時間が増えたか」を聞いたところ、そうした回答は少なかった。学生が学業にしっかり取り組むかは、就職活動の時期のせいではなく、大学自体にも問題があることを、大学側は認識してほしいと思う。

寺澤 康介 ProFuture代表 HR総研所長

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てらざわ こうすけ / Kosuke Terazawa

1986年慶應義塾大学卒業。就職情報会社役員等を経て、2007年現会社設立。日本最大級の人事ポータルサイト「HRプロ」、経営者向けサイト「経営プロ」を運営。約25年間、採用・人事関連のコンサルティングを行う。2015年より中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授。週刊東洋経済、労政時報、企業と人材、NHK、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、アエラ、文春等に採用・人事関連の執筆、出演、取材記事掲載など多数

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