「就職ナビ」の肥大化が学生を疲弊させている 新卒採用市場で続く最大の構造問題とは?

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ではなにが問題なのか。それは就職ナビの肥大化によって、企業、学生、そして大学までもが就職ナビ依存の採用・就職活動になっており、その負荷が膨大になってしまっている点だ。なぜそうなったのか。順に説明していこう。

その前に前提として知ってほしいのは、1991年に「大学設置基準の大綱化」という名の大学設置の規制緩和が実施され、大学の数が急激に増えたことだ。大学数は約500大学から800大学近くにまで増え、1991年当時25.5%だった大学進学率は、2009年には50%を超すレベルにまで達した。

その一方で少子化が進んでいるため、学生数を確保したい大学は、推薦やAO入試など実質無試験で学生を入学させるようになった。無試験入学率は学生の半数以上になっており、学力の差も大きく広がっている。学生でもアルファベットが書けない、分数計算ができないという学生が増えたのはこの頃からだ。

実際は「学歴フィルター」が存在

これと同じ時期の1990年代後半からインターネットを活用した就職ナビが出現し、それまでの紙の就職情報誌にとって代わった。紙の就職情報誌は、大学別に発行されるものが非常に多かった。全学生に配布するものでも、大学に応じて資料請求ハガキをつけるかつけないかを企業側が選択できた。つまり採用のターゲットになる大学だけに企業はアプローチしていたわけである。

一方、就職ナビでは、学校で区別をつけることを表面上していない。どんな企業でもすべての学生がプレエントリー(登録)できるようになっている。企業側もネット上で学校差別をしているという評判が立つことを嫌い、そのような情報開示をしていない。そうするとどうなるか。一部の人気大手企業にプレエントリーが集中し、紙の就職情報誌の頃の何十倍、何百倍もの応募が集まるようになってしまった。そのため人気大手企業のほとんどは、エントリーシートを落とすためのツールとして活用せざるを得なくなった。

HR総研が企業に対して調査したところ、企業の半数以上が「ターゲット大学を設定している」と回答している。この傾向はここ数年続いており、人気大手企業でターゲット大学を設定していないところはまずないだろう。しかし、表面上は全大学の学生の応募をネットで受け付けるようになっている。人気大手企業は大量の応募に対処するため、大学別に対応を変える「学歴フィルター」を設定している。

企業は大学別に会社説明会の応募受付枠を設定する。また、エントリーシート審査も大学別に対応を変える。多くの企業があるレベル以下の大学についてはろくに内容も見ないでエントリーシートで落とすケースがある。そもそも数万通もあるエントリーシートすべてを丹念に見ることは実質不可能だ。仮に5人の採用担当者が5万通のエントリーシートすべてに目を通すとすると、1人1万通、1通5分で見たとして5万分=約830時間要する。1日8時間使ったとしても、100日以上かかる計算になる。

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