ジョブズが実践した「温故知新」 キヤノン電子社長 酒巻久氏に聞く(下)

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自分がやりたいことは何なのか。それを実現するために組織に不足している人材はどういう人材なのか。どうやって人材を集めて、どう育成するか。

部下に対しても、自分のやりたいことは何なのか、どうなりたいのかをレポートで書かせて明確にさせます。そして、その姿を本人にイメージさせるのです。

そのうえで、いろいろなことをやらせてあげる。そのときに解答を教えるのではなく、「こうすればどうなるの」「なぜこれをやるの」と質問をして考えさせる。いい経験をたくさんさせることがいいマネジメントの基本なのです。

「一月三舟」を心掛けよ

仏教の用語で、「一月三舟」という言葉があります。これは、月を見ていても大きな湖で右岸で見た月と真ん中で見た月と、左岸で見た月は違って見えるので、ひとつの物事をいろんな角度から考えなくてはいけないということです。

自分自身も3方向から考え方をチェックしなくてはいけませんし、部下にも3方向からの質問をして気づかせるということが大事なのです。

いい経験とは、目標に向かってできるだけ失敗しないで経験を積んでいくことです。もちろん、ある程度失敗も必要です。頭で覚えたことは忘れてしまいますが、体で覚えたことは忘れません。消防士が火事がなくても訓練を積んでいるのは、その意味があるのです。

そのような経験を積んでいくと、いちばん必要な決断力がつきます。決断力がないとみんな先送りしてしまう。

インクジェットは20年以上、キヤノンで研究開発をして商品化された技術です。複写機だってゼロックスに追いつくまで長年かかった。自分が確立していなければ、このような研究はできません。それをきちんと教え込めるのがいいマネジャーなのです。

大切なのは部下と向き合うこと

管理職は、絶対に自分だけが上に上がろうと思ってはいけません。そうすると必ず下から足をすくわれます。部下のレベルをあげることで、組織全体が上に上がっていくことが理想なのです。

大切なのは部下とどれだけ向き合うか。部下を理解するには会う回数が大事なのです。メールでやり取りするだけでわかった気になってはいけません。

島 大輔 『会社四季報プロ500』編集長

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しま だいすけ / Daisuke Shima

慶応義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程修了。総合電機メーカー、生活実用系出版社に勤務後、2006年に東洋経済新報社に入社。書籍編集部、『週刊東洋経済』編集部、会社四季報オンライン編集部を経て2017年10月から『会社四季報』編集部に所属。2021年4月より『会社四季報プロ500』編集長。

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