東京には勝てない。だから「らしさ」を尖らせる スナックみたいなギター教室って?

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ギターを弾かずにおしゃべりだけで帰る人も?

――蒲郡市内だけで教えているのですか。

いえ。名古屋、西尾市、岡崎市でも月に2~8回教えています。蒲郡はほぼ毎日です。生徒さんは保育園児から90代のお年寄りまでいますが、30代がいちばん多いですね。男女比はほぼ半々です。

生徒数がいちばん多いのはやはり地元の蒲郡ですよ。50人ぐらいかな。娯楽のない町なので、「何かやってみたい」というニーズを僕たちがうまくつかまえているのかもしれません。本気で音楽をやってプロになろうという人は例外中の例外です。「習い事をやっている感」がほしかったり、居場所を求めている人もいる。ギターをケースから出さずにおしゃべりだけして帰っていく人もいますよ。

――文化的な場所が欲しいという気持ちはすごくわかります。僕も「スロース」を見つけたときはうれしかったです。清潔でセンスのよい店内に、食べ物やサブカル関連の本や雑誌が並べられていて、その内容に関するおしゃべりもできる。コーヒーもおいしいけれど、正直言って二の次です。

小中学生の頃、楽器店は町で1軒だけでギターを教えてくれる人はいませんでした。音楽雑誌を読むと、「アメリカでギターを学んで、いまでも毎日8時間練習している」といった話が出ている。でも、蒲郡ではそんな人と接点がない。絶望していましたね。かつての僕のような子がいたら、今の僕が何とかしてやりたいんです。

僕は父親から「エレキなんて不良だ!」と言われて(笑)、仕方なくクラシックギターから習い始めました。もちろん、途中からエレキ(ギター)に転向しましたけどね。おかげで今ではエレキ、クラシック、フォーク、ベース、ウクレレまでギターなら何でも教えられます。

――ギター教室を始めるに至った経緯を教えてください。大学は音楽系ではありませんよね。

はい。一応、法学部でしたが勉強はせずにギターばかり弾いていました。この頃についた先生がアメリカで学んだ人だったので、「雑誌で読んでいた憧れの世界の人とついに出会えた。僕も絶対にアメリカに行きたい!」と思いました。で、親に土下座して「大学を辞めてアメリカに行きたい」と理解と資金援助を頼んだら、頭を蹴られました(笑)。

仕方ないので大学は卒業しました。学生時代にバイトで200万円を貯め、地元の医療機器メーカーに「仮面就職」をして、合計400万円を持ってロサンゼルスに渡り、2年後に帰ってきたときには50万円のマイナスになっていました。

――愛知に戻ってどう感じましたか。

愛知には人間の種類が少ないですね。ほとんどがサラリーマンで、しかもトヨタ系が多い。(愛知県における)トヨタの浸透圧はすごいものがあります。関係ない仕事に就いている僕でも、この土地で呼吸をしているだけで堅実になっていく(笑)。選ばなければ仕事はあるので。たまにロサンゼルスに行って友達に会ったりすると、世間体にがんじがらめになって縮こまっている自分を発見してびっくりしますよ。

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