書店「存亡の危機」、また本屋が消えていく 出版不況で生き残る条件とは何か

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新宿ではむしろ本店を充実させる

                 紀伊国屋書店会長兼社長/高井昌史

書店事業は今まで損益トントンだった」(撮影:梅谷秀司)

新宿南店では、1階から5階までの和書コーナーを閉鎖し、6階にある洋書売り場だけを残す。できれば、家賃を値引きしてもらい継続したかったが、残念だ。その代わりに新宿本店の書籍売り場を増床する予定。新宿本店では、毎日のようにさまざまなイベントをやり、出版社もトークショーやサイン会に協力してくれる。

書店事業は今まで損益トントンくらいだった。新宿南店の家賃が軽減される分、これから採算はよくなってくる。今年は埼玉・川口、千葉・柏に出店したが、ほかの地域からも出店要請があり、新店を出す可能性も出てきた。

2015年4月には大日本印刷と共同で、出版流通イノベーションジャパン(PMIJ)を設立した。関係者とうまく調整し、出版社との直取引を増やしたい。現在、直取引の比率は1割くらいだが、将来的に2割程度まで高めていく。同時に、出版卸を通す流通ルートも維持・継承しながら、取次会社とは緊張感のある関係を作っていきたい。

書店事業にも適切な投資が必要だ

              丸善CHIホールディングス社長/中川清貴

「大日本印刷とともに効率的な取引を目指す」(撮影:梅谷秀司)

2015年には名古屋や京都、高松などに大型店を出店した。新規出店に伴う初期負担が多かったため、店舗・ネット販売事業は前期、3億円強の営業赤字。ただ今期は出店した店が利益貢献をしてくれる。書店事業を縮小させないように、適切な投資は必要だと考えている。

丸善CHIにも文教堂にも大日本印刷は出資している。これは印刷の仕事を請け負うだけでなく、書店事業に関与して出版市場全体に貢献するのが狙いだ。同社グループで展開するハイブリッド型総合書店「honto」は会員数が約345万人。この販売データを活用すれば、さまざまな改善や活性化ができる。

出版流通が抱える大きな問題は返本率の上昇だ。販売データと、大日本印刷が持つ小ロット印刷技術のプリント・オン・デマンドを組み合わせれば、本の初版を少なめに抑えて、売れ行きがよければきめ細かく増刷することも可能。印刷から販売まで一貫した効率的な取引を、出版社に提案できるようになる。

 

広瀬 泰之 東洋経済 記者

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ひろせ やすゆき / Yasuyuki Hirose

経営コンサル、書店などの業界を担当。『会社四季報』編集長を経て、現職は同・編集部長

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