書店「存亡の危機」、また本屋が消えていく 出版不況で生き残る条件とは何か

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一方、紀伊国屋書店も書店部門の採算は、「ほぼトントン」(高井昌史会長兼社長)。2015年8月期に営業利益を稼いだのは、大学や研究機関、製薬会社向けの学術誌だった。科学誌『ネイチャー』や医学誌『ランセット』をはじめ、高価な海外有力誌を幅広く手掛けるのも同社の特長だ。

大手チェーンの紀伊国屋だが、賃料高騰を理由に、都心一等地にある新宿南店のうち、1~5階の和書売り場を8月7日までで閉鎖。6階の洋書売り場のみを残す。跡には家具チェーンのニトリHDの入居が決まっている。本業への危機感は強い。

池袋のリブロ本店は今、三省堂書店に置き換わった(撮影:今井康一)

紀伊国屋は2015年4月、大日本印刷と出版流通の合弁会社を設立。すでに大日本印刷系列にある丸善CHIとは将来の仕入れ共同化すら視野に入れている。効率化を進めてアマゾンジャパンなどネット書店に対抗するのが狙いだ。

もっと体力のない中堅中小書店は、存続を懸け、差別化するのに必死である。

20年前より4割減、実は雑誌不況

「今は出版不況と言う人がいるが、雑誌不況と言ったほうが的を射ている」と、ある書店幹部は打ち明ける。

書籍・雑誌の販売金額は、1996年の2兆6564億円をピークに、2015年には1兆5220億円と4割超も落ち込んだ。中でも雑誌はこの20年間で半減。卸最大手の日本出版販売(日販)の2016年3月期決算では、雑誌の売上高が32年ぶりに書籍を下回った。同じ書店でも、紀伊国屋のような大型店は書籍比率が約8割を占める反面、中堅中小の書店ほど雑誌比率が高く、経営を圧迫している。

神奈川県川崎市に本社がある文教堂グループHDは、住宅地など比較的中小の店舗が多い。2015年8月期は自己資本比率がわずか2.8%に低下。売上高構成比は書籍38%に対し、雑誌35%、その他27%だった。

現在注力する「その他」とは、文教堂ホビーで扱うプラモデルや模型、ミニカーなどだ。アニメガ店ではアニメグッズも展開。本社にグッズ開発を専門で行う部署も新設した。今後は従来以上に趣味性の高い分野をそろえる。

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