韓国に「朝鮮族との融合」という覚悟はあるか 今や食堂や介護現場で必要不可欠な存在に

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「朝鮮族の人たちが集まり始めたのは10年ほど前から。あっという間に増えて、今では韓国人より多くなっちゃった。最初はねえ、それはいろいろありましたよ。話し始めたら何日あっても足らないくらい。中国での暮らしと韓国での暮らしはルールが違うからしょうがないけど、子どもの教育によくないといって引っ越して出ていった韓国人もいました。でも、ずいぶん韓国のルールを守るようになりました。今ではなんとかやっていける」

そして、最近タクシーに乗った際に行き先を告げると、「ああ、あそこか、なんかおかしなところだろ」と言われて複雑な気持ちになったと肩をすくめた。

韓国社会ではいまだに朝鮮族に不法滞在者が多いとみる人も少なくなく、朝鮮族の人たちの間でもつねにホットな話題はビザ関連だ。3カ月の親戚訪問ビザを取得するのも容易ではなく、そのうちにビザ取得のために暗躍するブローカーが現れて、多額の借金を抱えて韓国に入国する人も増えた。そうして借金返済のために働いているうちに不法滞在者になってしまうケースが典型的なのだという。

今はビザの種類も増えたが、不便な点は残っていて、「祖先が韓国人なのに相変わらず外国人扱い」と不満げに話す人もいる。働きやすいビザ取得のための専門技術などの資格を取る塾も乱立していて、大林洞だけで30数件あった。

韓国で成功したいという意地もある

韓国社会で労働面からの朝鮮族の存在は増していて、朝鮮族の間でも終の棲家として韓国を選択する人も増えた。韓国籍を取得した人は10数万人ともいわれ、その中からは弁護士になる人も現れたが、「そういう人ほど朝鮮族という出自を隠そうとする」と先の金総会長は言う。韓国社会での朝鮮族の立場が伝わってくる。

そういう金総会長自身は、コリアンドリームを”幻想”でなく”現実“にした。再び中国に戻る選択肢はなかったのかと問うと、こんな答えが返ってきた。

「韓国に来ていちばん嬉しかったことは娘が生まれたことです。中国で生まれた息子がいますが、韓国ではかわいい赤ちゃん服がたくさんありました。ああ、こんなかわいい服を着せたいなあと思っていたら、娘が生まれて願いが叶った。そんな幸せもあったし、事業も大きくなってしまったし、それにここまで増えた朝鮮族はこれからさらに韓国社会で声を上げていくことが必要になる。その代弁者が必要だと考えて、そうした活動をこれからやっていきたいと思っています。それに韓国社会で成功したいという意地もありますからね」

9月の旧盆(秋夕)には、3回目となる朝鮮族のための祭りを開く予定だ。
 

菅野 朋子 ノンフィクションライター

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かんの ともこ / Tomoko Kanno

1963年生まれ。中央大学卒業。出版社勤務、『週刊文春』の記者を経て、現在フリー。ソウル在住。主な著書に『好きになってはいけない国』(文藝春秋)、『韓国窃盗ビジネスを追え』(新潮社)がある。

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