「レ・ミゼラブル」仕掛け人の"感動の極意" ヒットの秘訣を豪語する人間はウソつき

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 1985年のロンドンでの初演以来、世界43カ国、21カ国語に翻訳され、6000万人を超える観客動員を記録。今なおロングラン記録を更新し続けるミュージカル「レ・ミゼラブル」が、このたび完全映画化の運びとなり、昨年の12月21日から全国で公開されている。
 原作は、文豪ヴィクトル・ユゴーが1862年に発表した大河小説。19世紀フランスを舞台に、パンを盗んだ罪で19年間投獄されたジャン・バルジャンの波乱万丈の人生を描き出した本作は、絶望的な状況でありながらも、よりよい明日を信じ、今日を懸命に生き抜く力強さに満ちている。
 監督は、『英国王のスピーチ』でアカデミー賞監督賞を受賞した名匠トム・フーパー。キャストもヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アマンダ・セイフライド、アン・ハサウェイといった超一流どころが集結している。
 この映画版『レ・ミゼラブル』のプロデューサーとして名を連ねるのは、キャメロン・マッキントッシュ氏。舞台版の生みの親でもあり、「キャッツ」「オペラ座の怪人」「ミス・サイゴン」などミュージカルの歴史に金字塔を打ち立てる名作をプロデュースしてきた人物だ。そんなミュージカルの世界的プロデューサーに、映画製作の裏側、そして自身の仕事に対する思いなどを聞いた。

――「レ・ミゼラブル」ミュージカルの初演は1985年。それから世界中でロングランを続ける大ヒット作ですが、その間には当然、映画化のオファーなどがあったのでは?

「レ・ミゼラブル」がブロードウェイや日本で開幕した頃(1987年)には、(ソニー傘下の)トライスター・ピクチャーズとの契約が決まっていて、すでに映画化の話は進んでいた。私は(『ダウンタウン物語』『ピンク・フロイド/ザ・ウォール』『エビータ』など、数々の音楽映画の傑作を発表した)アラン・パーカー監督に任せたかったし、彼もOKの返事をしてくれていた。

だが、一方でもう少しショーが世界的にヒットしてから映画化をしたいという気持ちもあった。そこで映画化を5年間、保留してくれという話し合いをしたが、その5年の間にアラン・パーカーが降りてしまった。その後も、他の監督でやろうという話が出たが、結局うまくいかなかった。時間が経ち、再び私のところに映画化の権利が戻ってきた。

――それから20年以上の月日が経ちました。

80年代は、ミュージカルというものが愛好家向けのものだった。年寄りが見るもので、若い人が見るようなものではなかったともいえる。しかし、ここ10年の間に「アメリカン・アイドル」のようなタレント発掘番組などが生まれてきて、若い人たちがミュージカルに興味を持つようになってきた。

同時にその10年の間に『ムーラン・ルージュ』や『シカゴ』『マンマ・ミーア!』『エビータ』『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』『オペラ座の怪人』と、いろいろなミュージカル映画が出てきた。そういうミュージカル映画を取り巻く環境が整ってきたところで、今回の『レ・ミゼラブル』の映画化につながった。80年代にうまくいかなかったことも功を奏し、ヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイなど、ベストのキャストを揃えることができた。

――俳優の生の歌声にはかなりこだわったとか。

もし80年代に映像化をしていたら、撮影現場で俳優たちが生で歌を歌う「同録(同時録音)」技術は不可能だっただろう。きっと従来の、別の日に歌を録音して、それに合わせて口パクで演技をするようなやり方をとっていたと思う。『レ・ミゼラブル』はすべてのシーンが歌で作られている。だからたとえば3カ月前に録音したものに合わせて、みんなが口パクで演技をしたとしても、まだどういう演技をするのかも決めていないし、共演者にも監督にも会ってない時点で歌だけ先に録音するなんてありえない。

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