しかし翌24日(火)、一部報道にもあるように、首相指示のもと、経済産業省出身の今井尚哉・内閣総理大臣秘書官などを中心に、4枚の極秘資料が作られた。私たちは「リーマンペーパー」と呼んでいますが、「原油などの商品価格の下落幅がリーマンショック時と同様に55%も下落」しており、それによって「新興国経済が打撃を受けている」などとしたもので、これを使ってサミットの場で「世界的な経済危機」を各国首脳に訴えたわけです。
この論旨にはかなり無理がありました。新興国の調子が悪く見えているのは、米国経済が堅調なことの裏返しです。つまり米国の利上げ観測で、今まで新興国へシフトしていた資金が米国に戻る「巻き戻し」が起きている結果です。また、商品価格にしても最近では一時の底値からは上昇基調に転じています。
しかもこの「リーマンペーパー」では、国内メディアに配られた日本語版にだけ「リーマンショック並みの」という説明があり、各国首脳に実際に配られた英語版にはありませんでした。
それでも英キャメロン首相などの「世界的な経済危機は言い過ぎ」の発言や、英フィナンシャル・タイムズの「政治利用」指摘にもあるように、「リーマンショック並みの経済危機」を印象付けようとした目論見はバレバレでした。要はサミットを、消費増税回避のための国内向けセレモニーに仕立てようとしたわけです。
これに対して日本の報道は「恥ずかしい」という論調が主体でしたが、安倍政権の独善的な意思決定過程が露わになったものであり、極めて深刻な問題です。こうしたやり方に自民党の中でも懸念を持つ人がいます。つまり世界経済が危機に瀕しているのではなく、民主的な政策決定プロセスそのものが危機に瀕しているのです。
安倍首相は「究極のポピュリスト」

有馬:二つ目の「政治不信」についてですが、今回の「消費増税再延期」は結局、参院選勝利のための「道具」に使われたとの批判が少なくありません。「高齢者への3万円給付政策」もそうですが、政治家にとって消費増税は鬼門なので、選挙のためには増税はせず、結局「バラマキ」をしないといけないのでしょうか。また国民はそこまでバラマキを欲しているのでしょうか。
玉木:私は「政治家は、財源の議論から逃げてはいけない」と思います。戦後の日本政治の大きな問題点は国民に「あれもこれもできる」とバラ色の話ばかりして、いざとなると財源の問題からは逃げてきたことです。
しかし世の中「ただのもの」はありません。国民に必要なサービスや政策があれば、堂々と財源の問題をして、負担の話をすべきですし、国民もしっかり説明すれば納得してくれると信じています。私が政治家になったのも、ここが出発点になっています。
しかし、今回安倍首相はこうした説明責任を放棄し、政治不信を増幅させました。景気が悪い場合は再延期もあり得るといっていたならまだわかりますが、2014年10月に消費増税を延期した際に、「増税の再延期はない」と断言したのです。
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