日本製紙、「脱・紙」で踏み切る米国事業買収 300億円を投じる紙容器の皮算用とは?

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日本製紙は買収でパッケージング事業に注力。中でも、液体用紙容器は、コンビニ向け飲料にも使われている。写真の「NS-FUJI」は、日本製紙が四国加工機と共同開発した無菌充填包装システムだ

6月16日、日本製紙は、世界有数の林産企業グループである米ウェアーハウザー社から、液体用の紙容器向け原紙事業を2億8500万ドル(1ドル=105円換算で300億円弱)で買収することに合意したと発表した。

日本製紙がこれほどの大型M&Aを行うのは、2010年6月に中国の板紙大手、理文造紙と業務提携を締結し、約426億円を出資(株式保有割合12%)して以来、5年ぶりだ。

日本製紙はこの間、2011年3月には主力工場の一つである石巻工場(宮城県)が、東日本大震災に伴う津波で壊滅状態となり、2011年3月~2012年3月期の2年間で、実に合計820億円もの震災損失を特損として計上。石巻工場自体は見事に再建を果たしたものの、復興資金調達のために高水準の続いた有利子負債の圧縮がここ数年の課題となってきた。

追加投資も含めれば、500億円強を投じてきた理文造紙にしても、2015年4月には業務提携を解消し、保有株式を同社創業家一族などに順次売却して撤退。同じく2015年4月には完全子会社である、四国コカ・コーラボトリングの全株式を、コカ・コーラウエストに売却した。そうした売却資金も活用し、財務体質改善を進めた結果、ようやく日本製紙は新たな大型投資に乗り出すことができた面もある。

買収先の米社は本業以外の売却模索

今回の紙容器向け原紙事業買収の狙いは、そもそもどこにあるのか。

液体用の紙容器とは、すなわち、牛乳・ジュース向けの紙パックや、ファストフードなどで多用される紙コップ、さらにはカップ麺やヨーグルト向けなどの紙容器を指す。衛生面での要求が厳しいため、原料には古紙を使わず、100%バージンパルプで作られる厚手の紙で、ポリエチレン樹脂をラミネート加工するなどして、耐水性を高めている。

ウェアーハウザーはこうした紙容器向け原紙の生産では、米エバーグリーン社、北欧のストラエンソ社に次ぎ世界3位。ただし、最近は主力の林産事業に経営資源を集中するため、紙パルプ関連事業の切り離しを進めてきた。今回の液体用の紙容器向け原紙事業の売却もその一環といえる。

一方の日本製紙は、新聞紙・印刷用紙などの洋紙や、段ボール原材料となる板紙という、素材としての「紙」が主力事業だ。ただ、出版物などのデジタル化に伴う洋紙需要の縮小や、板紙市場での競争激化を受けて、業績はこのところ伸び悩みぎみ。2015年4月にスタートした第5次中期経営計画の中でも、紙容器を軸としたパッケージング事業の強化を事業構造転換の柱の一つに掲げていた。

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