楽園企業の「ムダを省く力」が超スゴすぎた 「残業からドアノブ、警備員まで」驚きの数々

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結論から書くと、新しい方法が必ずしもうまくいくとは限らない。その場合はまず元に戻して、また考える。それが未来工業の原則だ。

その「いったんやめてみて、ダメなら元に戻す」というところに、同社の儲かる秘訣がある。

仕事の「9割」は職場に伝わるムダな慣習

「やめる力」はそう簡単に身につくものではない。日々の業務を注意深く観察し、ムダや改善すべき箇所を見つけ、新たな方法を考える必要もある。山田氏の生前の語録から、「やめる力」について触れたものを紹介しよう。

1.「『ムダかな?』と思っても、実際にやめてみる人は圧倒的に少ないもんや」

「職場で『これはムダかな?』と思っても、実際にやめてみる人は圧倒的に少ないもんや。やめると『次の方法』を考え、実行する必要がある。だから、みんな面倒臭がって『やめる』のをやるんや」

何かをやめる人とやめられない人の間には、「実行力」という点だけを見ても、それだけ大きな開きがある。

2.「やめてみてダメなら元に戻す。そして、また考えればええ」

「一度やめてみてダメなら元に戻す。そして、また考えればええ」というのも山田氏の口ぐせだった。「ダメなら元に戻せばいい」と考えられれば、別の方法がうまくいかなくても、すぐに頭を切り換えられるからだ。

「『ダメなら元に戻せばいいんや』と考えられれば、やめることが面倒くさくなくなるやろ?」

3.「仕事の9割は『職場に代々引き継がれたムダな慣習』と思わんか?」

多くの会社は「ムダかな?」と思っても、変えるのが面倒くさいからと放ったらかす。「そのうちムダをムダとも思わなくなる」と山田氏は話していた。

「その結果、仕事は『ムダと非効率のかたまり』になる。そもそも仕事の約9割は『職場に代々伝わるムダな慣習の集合体』と思わんか?」

さすがに「9割」は言い過ぎだが、そこは山田氏得意の大げさレトリック。同社の「やめる力」は、決して面倒くさがらず、少しのムダや非効率をやめて、「つねに『改善』を考える社風」に支えられている。

未来工業が50年間赤字なしで、地道に好業績を続けている秘密の一端がそこにある。同社の「やめる力」とは、小さなことから大きなことまで「つねに考え続ける」ということなのだ。

あなたの職場の「やめる力」はどうだろうか。少しのムダや非効率なことを、面倒くさいからと見過ごしてはいないだろうか? また、あなた自身は最近「やめる力」を、いったい、何に使ったのだろうか?

「やめる力」にこそ会社の、そしてビジネスマン個人の力量が端的にあらわれる。

荒川 龍 ルポライター

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あらかわ りゅう / Ryu Arakawa

1963年、大阪府生まれ。『PRESIDENT Online』『潮』『AERA』などで執筆中。著書『レンタルお姉さん』(東洋経済新報社)は2007年にNHKドラマ『スロースタート』の原案となった。ほかの著書に『自分を生きる働き方』(学芸出版社刊)『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書)などがある。

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