週刊文春は、どんな記事を「ボツ」にするのか 木本が「記事化の基準」をあれこれ聞いた

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新谷:で、それをわかってもらいたいと、所属する太田プロの偉い人と会った時に「あれで女優として一皮むけたという話もありますよね」と言ったら、「あんたに言われたくないよ」と怒られましたが(笑)。

木本:ははは。太田プロとしては簡単には受け入れられないでしょうね。

ゲス不倫議員の掲載を一週間遅らせたワケは

新谷 学(しんたに まなぶ)/1964年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、文藝春秋に入社。「スポーツ・グラフィック・ナンバー」「マルコポーロ」「文藝春秋」編集部やノンフィクション局第一部長を経て、2012年4月「週刊文春」編集長に就任。「メリー喜多川独占インタビュー」「ベッキーと川谷絵音の不倫」「甘利大臣金銭授受疑惑」「育休議員、宮崎謙介のゲス不倫」「舛添都知事の公用車での別荘通い」など特大スクープを連発している

新谷:記事に取り上げる基準の根っこはシンプルです。たとえば、ゲス不倫の宮崎元議員も、育休宣言して注目度が上がってきた。どんな人かなと思っていたら、さまざまな情報提供があり、記者もネタを引っ張ってきた。「注目度が上がっているから、(麻雀でいう)イーファンついてるよね」と、張り込んでみたら3日ですべてが明らかになりました。

木本:たった3日ですか。

新谷:女性を特定し、張り付いていたら京都へ行って、宮崎さんと会って、彼の自宅に入った。目視もしたし、カメラにも収めた。さあ記事にできるという段階で議論になったのが、奥さんの出産前というリスク。記事によって初めて奥さんの金子恵美議員が不倫行為を知って、ショックで母体に影響が出た場合、取り返しのつかないことです。目先のスクープのため万が一のことがあった場合の影響は計り知れないものがある。ただ、もう一誌「フライデー」も追っかけているのは確認できていたので、うちが木曜日で発売を一週間スルーして、「フライデー」が先に出るなら、それはそれで仕方ないと。

木本:優先順位をはっきりさせた訳ですね。

新谷:はい。目先のスクープや部数か、雑誌の看板を守るかだったら、当然ながら看板が大事なわけです。看板は守って磨いて引き継いでいかなければならないので、掲載を見送りました。間もなく無事ご出産だとわかり、次週に掲載となったのです。

木本:すごい注目のニュースの掲載をやめたことはありますか?

新谷:乙武洋匡さんのことは、かなり早い段階でつかんでいました。結局「週刊新潮」さんが記事にしましたが、うちが方向性を考えていたら、先に出されてしまった。僕らは乙武さんへのヒューマンインタレストに寄せて、本人の肉声もたっぷり入れて記事にできないかなと思っていたんです。一方的に断罪する記事ではないと。

木本:乙武さんの絶倫ぶりだけをクローズアップしても仕方がないと言うスタンスですね。

新谷:この対談も、雑誌ジャーナリズムを代表して高説を垂れるみたいな偉そうなものは嫌なんです。たかが週刊誌なので。されど五分の魂で、権力監視とかは、そっと胸の奥に秘めていればいい話。むしろ記事が面白いことが大事です。週刊誌はよく「興味本位だ」と批判されますが、当たり前だと思うんですよね。

木本:それは? もう少し説明していただけますか。

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